#20 七家六歌



「続いては、大人気のお二人が共演を記念して登壇とうだんしてくれます〜〜〜っ!! ヒロイン、リアーティ役の久米夢実くめゆめみさんと、その妹、メイティ役の白井萌々香しらいももかさんで〜〜〜〜すっ!」



すげえ大歓声。



俺もまだノーチェックなんだけど、二人が共演するアニメって確か『ベリーメリーシフォンの画策かくさく』っていうやつだよな。

謎解き系のファンタジー恋愛だけど、キャストの移籍問題——萌々香と夢実ちゃんだな——のお陰でちょっとトラブって公開延期になっていたんだった。

脚本も進んでねえっていうし。大丈夫なんかな……あのアニメ。




でも、そっか、来年ようやく放映されるのか〜〜〜楽しみだな。




「みんなぁ〜〜〜ありがとぉぉぉ、みんなの萌々香ちゃんだよ」

「皆さんこんにちは〜〜〜夢実ですっ!!」

「さてさて。色々と裏話を伺いたいのですが、まず、お二人はプライベートも仲が良いと評判ですが、最近はなにかして遊びましたか?」

「ああ〜〜先日のイブでは二人でちょっとだけご飯行ったんだよね? 夢実」

「あ、え、ええ? う、うんうん。そ、そう。美味しかったね」

「っていうのは冗談で〜〜〜す!! 夢実は調子いいな〜〜〜」

「……ッ!」

「で、本当はどうだったんですか?」

「あたしは……ここ数日の年末年始はお家で一人……寝込んでいました〜〜〜風邪気味だったので。夢実は?」

「え、ええ……わ、わたしも……家で……ゴロゴロ」

「あれ、イブも年末年始もすごい楽しかったって言っていたなかった? ほら、テーマパークデートとか初売りに行ったとかって言っていたじゃない」

「そ、そんなこと言った……? そ、それは、そ、その仲の良い友だちと行ったってことで……」

「お、お二人とも仲が良すぎるのが分かる会話でしたね。それで、アフレコが始まって何か苦労しているところとかありますか?」




も、萌々香のやつ。あんな天然キャラだったか。

笑顔でNGスレスレトークしやがって。夢実ちゃんが困ってるじゃんか。

んでもって、観客の白い目が際立つな……。おそらく夢実ちゃんに向けてだな。

萌々香は未だに人気絶頂だし。



やっぱり……あのスキャンダルネタが効いている感じだな。

可哀そうに。

でも……俺はいつまでも応援しているから……。



「ちょっと〜〜〜ハル君?」

「うわッ!? びっくりしたッ!!」

「なにコソコソしてるのかな〜〜って」

「いや……夢実ちゃんどうかなって」

「……あそこに火をつけて魔女の断末魔を聞くとかどうかな……」

「え? なんて言った? すげえ恐ろしい言葉がどこかから聞こえたような」

「なんでもな〜〜い。そうだ。スマホ忍ばせてくれた?」

「ああ、直接渡したぞ。分かったって——」



——ピキッ!!!! って聞こえたような……。



「二人きりで……会ったの……?」



こ、怖ッ!!

ヴェロニカの顔怖ッ!!!

どこでスイッチ入るのか分かんねえよ。っていうか、絶対に嫉妬だよな?

それって、俺のことやっぱり……考えてくれているってことでいいんだよな?

まったく行動が変わんないから戸惑うけど……あのキスは……そういう意味でいいんだよな?

もう全く意味がわからなくて……不安になってくるよ……。



「あ、ああ。うん。まずかったか?」

「……やっぱり今のうちに亡き者に……」

「……農地に無き者? なんて言った? それでこれからどうする?」

「決まってるでしょ。イベントを乗り切って『華麗』に行くのよ」

「なんなんだよ。華麗に行くとか。あ、そうだ、キャンディちゃんってなんだよ。パーティー・ライオットの姉妹だとかなんとか言ってたけど」

「あぁ……まあ、そのうち分かるから。とにかく、あたし、もう一回出演しなきゃだから。あとでね〜〜〜」



なんだよ。俺がマネージャーなのに、なんも知らされてないとか。

まあ、ヴェロニカのことだし。無茶はしないだろうけど。

どいつもこいつも……。



まあ、俺はここで特別な体験しているだけで大満足だからいいけどな〜〜〜♪




で、イベントも無事終了して、萌々香と隆介に会わないようにこっそり裏口から脱出。ヴェロニカとシナモンちゃん、リオン姉と合流して……。



「みんな打ち上げにいくお〜〜〜〜〜」

「「お〜〜〜っ!!」」



だから、それ苦手なんだって。

みんなしてこっち見んなよな。



「おー……」



いつの間にか日が落ちてたんだな。すげえ寒い。

正月明けからすげえ混み合ってる。



「打ち上げってどこに……」

「? だから何度も言ってるじゃん。あそこだよ?」

「ハルさん、飲み過ぎちゃダメですよ?」

「そうだぞ。ハル殿は飲みすぎると甘えん坊になるから。ヴェロニカに抱きついて——」



うわ〜〜〜〜〜〜それ言っちゃダメだって。リオン姉。っていうか、なんで覚えてるの?

ねえ、年始の夜だよね?

あのとき、絶対に潰れていたよね?

あれ、むしろ飲み過ぎちゃダメなのは、君と君。そう、そこの姉妹だよ姉妹。

人様に迷惑かけんなよって。



ん……?

……ショットバーじゃね?



ショットバー『華麗』。ああ、『打ち上げは華麗』に、か。

集合場所を暗に告げていたってことか。

っていうか言えよなぁぁぁッ!!



地下なのか。雰囲気もいい感じ。三姉妹が好きそうな店だわ。お洒落で清潔感があって、マスターは……女の人……。

すげえカッコいい。なんだあの人。



「いらっしゃい。久しぶりね。九頭竜美羽くずりゅうみうと宮島姉妹。ん? 見ない顔だけど……ああ、君がハル君だね」

「「「ご、ご無沙汰してます〜〜〜」」」



み、みんな一斉に頭下げて……。

ぶ、部活の上下関係かーーーいッ!?

そ、そんなに怖い人なのか。やべえ。やべえぞ。

完全にアウェーだろこれ。



「はじめまして。このお店のオーナー兼マスター、七家六歌なないえりっかよ。君は……蒼乃春輔あおのしゅんすけくんだよね?」

「え、ええ……どうして?」

「チビ助——じゃなかった。美羽に聞いていたから。話して大丈夫? うん、そう。えっとね、私も施設の出身なの」




オ、オーラだけで凍りつく。

そんなイメージの人だな。七家六歌さんって。

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