#16 決闘は早食いで



冬だーーっ!!

プールだーーーーッ!!

胃のムカつきだぁーーーーーーッ!!



……気持ち悪い。結局、訳もわからないまま飲まされて、未成年で酒を飲めないトーカと酒が嫌いな母さん以外全員酔いつぶれ。トーカと母さんは呆れて寝ちまうし。父さんはそうそうに寝込んだし。って昼間から飲んでいればそうなるだろうよ。

二日酔いというよりも、胃がおかしい。



なのに……なのに……。



なーんでそんなにテンション高いわけーーーーッ!?



「ハ〜〜〜ルきゅんっ!! どう水着っ!! カワイイのいっぱい売ってたっ♪」

「ちょ、ちょっとヴェロ姉っ!? い、いきなりそんな露出して……もう少し恥じらいってものをッッッ!!」

「なんだか暑いな。さすが日本のハワイだ」



うんうん。冬でも真夏並みの室温保っているからね。むしろ暑くて脱がなきゃいられないからね。



うんうん。流れるプール前で待ち合わせ。

浮き輪の空気入れるコンプレッサー前だから混んで……。




!?!?!?!?!?




当たり前だけど……みんな水着……な、なんだってーーーーッ!




……ッ!!




ぶほッッッ!! とんでもない破壊力だ……。眩しいーーーーッ!! と、溶けてしまうーーーーッ!!

上を見ていなければ直視して鼻血出して死んでしまうっ! た、助けてーーーーっ!!



ん?



いつも以上に二の腕に柔らかい感触……むにッて……。

ん?



「ヴェ、ヴェロニカなにしてんのーーーーーッ!!」

「んー。腕組みしてくっついてる?」

「そ……う」

「SOU?」

「しゃーーーーッ」

「SHAAAA?」

「ルディスタァァァァァァンスッッッ!!!」



そ、そんなセパレートな白い水着なんて着やがって。シナモンちゃんみたいにラッシュガードを着やがれっての。って、シナモンちゃん……ダメだって。

脱いじゃだめだってーーーーーーッ!!



見ちゃダメだ見ちゃダメだ。

ヴェロニカも、シナモンちゃんも意外とデカい……うああああああああ助けてぇーーーーーーッ!!



はぁはぁ……リオン姉……さらにデカい……。

うああああああああああああんッ!!!!

全員スタイル良すぎーーーーーーーッ!!

死ぬからね?

俺、本気で死んじゃうからねっ!?



「もうダメ……」



ざぶんッって流れるプールに後ろから転落して……そのまま流されて……ああ、このまま流れに身をゆだねよう……。そうだ。俺は何も見えない。何も聞こえない。このまま閉館するまで流れ続ければいいんだ。



「ちょっと〜〜〜ハル君? もうっ!! せっかくプールに来たんだから……遊ぼうよ!」

「……ハルさん蒸発寸前のバブルスライムみたいです。まあ、察しますけど」

「ハル殿!! ぜひ、水泳勝負を願いたいッ!!」



身が持たない。このままでは自我が崩壊してしまう。



「よぉ。春輔。偶然だな」

「ハル君〜〜〜一緒に遊ぼ♡」



ああ、うぜえのが来た。空気読めよ。俺は今、必死に煩悩ぼんのうと戦ってんだよ。三姉妹に囲まれて、激しい流れの中、身動き取れずに成されるがままだっつうの。

ああああ。人が多いから……なぬッッッ!?



「み、密着しすぎーーーーーッ!! ヴェロニーもシナモンちゃんも、リオン姉も一旦離れろってぇぇぇ」

「おいおい。女三人に囲まれるとか、お前贅沢すぎ。ヴェロニカをよこせ。僕が引き取る」

「じゃあ、あたしハル君引き取るね♪」



こいつら……それぞれが優雅にデカイ浮き輪に乗りやがって。余裕だなコラ。

俺は今、人生最大の危機にひんしているというのに。このままだとプールから出られねえんだよ。ああ、肉塊にくかいだよ肉塊。とんでもなく柔らかい肉塊に囲まれて……あれ、なに。よく考えたら、この三姉妹は俺に触れてもなんとも思わないの?

は? 俺のこと男だと認識していないの?

普通なら逆セクハラでタイーホじゃないの?



「どさくさに紛れてハルさんの筋肉にさわれて嬉しい……ぽっ」

「シナモンちゃん何か言った? あのさ、もう少し離れてくれると嬉しいんだけど」

「はっ! ヴェロ姉さんの癖がいつの間にか感染うつって……」

「きゃあああハル君助けて……急流で足を取られて」

「うげええええ。く、首ヲ締めルナ……ヴェ、ヴェロニー、む、胸が……」



って、ヴェロニカッ!! わざとじゃねえかッ!! 



「うむ。ハル殿もなかなかキツイ鍛錬をするのだな。面白い。私も手伝うぞッ!!」

「リ、リオン姉……前からはダメだぁぁぁ!! 本気で溺れる……肉塊に溺れるぅぅぅぅ」



マジで死ぬ。これはダメだ。そ、そもそもなんで俺が浮き輪代わりになってるんだって。



「くそぉぉぉぉぉぉ!! おい春輔ッ!! てめえ、僕よりもいい思いするなんてムカつく野郎だぜ。おい、勝負しろ」

「ど、どこがいい思いなんだよッ!! どうみても苦行だろうがッ!!」

「……あたしのハル君に寄ってたかって……きぃぃぃぃッ!! あたしのモノなのにッッ!!」



な、何してんだ萌々香ァァァァ!!

て、てめえ、横から殺しにかかってんだろソレッ!!

首絞めんなやぁぁぁッ!!!


マジで、ライフセーバーのバイトの経験なかったら死んでるからなッ!!

溺れた家族連れ3人を一人で救った経験が物を言っているが、その時以上に今は辛いィィィィ!!



「ちょっと、このビッ◯がッ!! 離れなさいよッ!!」

「あんたこそ、あたしのハル君に勝手に触らないでッ!! この泥棒猫ッ!!」



いい加減に……。



「しろやぁぁぁぁぁぁッ!!」



ようやく流れの弱いエリアに入ったぜ……。

本当に……なんで俺を。



「浮き輪代わりにするんじゃボケぇぇぇぇ!!」



はぁはぁ。体力消耗が激しい。

とりあえず、プールから上がれたが。

今度は隆介と勝負とか。

ああ、決闘なら受けて立ってやるよ。いつか白黒つけてやろうって思ってたんだよ。

泳ぎなら負けねぇぞコラッ!!



「勝負内容は?」

「早食いだ」



ああ、早食いね。うんうんプールに来たら早食いだよな。えっと、ハワイアンバーガーかな。それともロコモコかな? ガーリックシュリンプなんてのもある。

プールサイドで美女が応援する中、白熱の勝負ができそうだよな〜〜〜♪



って違ッ!!



「隆介ッ!! てめえ、プールに来てなんで早食いなんだよッ!! バカなのかッ!?」

「馬鹿はてめえだ。僕が泳げると思ってるのかッ!! あぁん!?」

「……は?」

「このクズ男……泳げないことを誇らしげに言うなーーーッ!」

「ハルさん……相手にしないほうが……」

「いや、シナモン。男にはな……決して背を向けてはいけないときがあるんだ。うんうん。ハル殿の代わりに私が——」

「カッコ悪い男だな……クソだろ。このゴミ男」

「ん? 萌々香なんか邪悪な言葉が聞こえたような、聞こえないような」

「あぁん。ハル君、あたしが呪詛じゅそなんてつぶやくわけないじゃないっ」

「本性現したな、白井萌々香ッ!!」

「あんたに言われたくないわよ。腹黒女の学習帳がッ」

「いいわ。あんたもあたしと勝負しなさい。そうね、チーム戦よ? どう?」




……は? 




なんで勝負を受ける前提なんだ?

泳ぎなら負けねえけど……早食いとか無理ゲーだろ。俺、そんなに食に関しては得意なほうじゃないぞ? いや、ヴェロニカもどっちかっていうと少食だし、むしろ食うのメチャクチャ遅えじゃねえか。




ってことでやってきましたぁーーーーっ!!

ハワイアンバーガー店っ!! 

いやぁ……単なるファストフードかと思ったら、意外とちゃんとしたハワイアンバーガーなんですね〜〜。大きすぎて一口じゃかぶり付けないじゃないですか〜〜〜。食べごたえのある肉厚バーガーで食欲をそそります〜〜〜。

これは勝負が見物みものですね!


さて、選手の紹介です。

赤コーナー。

『クズ過ぎて吐き気を催すアホップルの葛島隆介&白井萌々香ぁぁ〜〜』

白コーナー、自己肯定感は低いが——。



って違ッ!!



「……お前馬鹿だろ。プールで早食いとか馬鹿だろ?」

「くくくっ! 僕は知ってるぞ。春輔……昨日飲みすぎて二日酔いだろ?」

「くッ……ち、違うッ!! た、ただ胃がオカシイだけだっ!! 酔ってなんかないッ!!」

「ハ、ハル君……無理しないで。リオン姉と代わっても……」

「ヴェロニーの前で逃げるわけには……」



ってあれ。な、なに機材用意してるの?

マジ? リオン姉がテーブルにパソコン用意して……シナモンちゃんマイクこっちに向けてるけど?



「パーティー・ライオットチャンネル。は〜〜い!! キャラメル・ヴェロニカことヴェロニーちゃんで〜〜す」

「今日は音声のみのぉ〜〜〜シナモン・エンデューロで〜〜しゅ」

「同じく音声だけの……チョコレート・ヴァーミリオン推参ッ!!」



えっと……みんなして馬鹿なの?

な、なんでこれを配信しようとか思うわけ?

え?

っていうかVtuberだとして……ヴェロニカはいいよ。俺は?

まさか実写とかってないよね?



「心配しないでください。ハルさんのキャラも作りました〜〜〜どうです? かわいくないですか〜〜?」



ああ〜〜〜カワイイカワイイ。俺そっくりじゃん。

ニコニコして首振って……うんうん♪



って、なんだそれはーーーーーッ!!



「フガシ・エナジーマンって命名しました」

「えっと……誰が?」

「ヴェロ姉に決まってるじゃないですか」

「……フガシってふ菓子のこと? めっちゃ弱そう」

「……ダメですかぁ?? うぅ。がんばって描いたのに」

「ああ、いやいやいや。シ、シナモンちゃん、う、うんカワイイよ」



いや、それはそうと……隆介と萌々香の絵が雑すぎるんだが。

黒い金平糖に髪の毛みたいな手足が生えてて……目は線で斜めに。怒ってるみたいだな。



「おい、なんで僕がこんなバイキンみたいな絵なんだ?」

「そうよ。あたしをバイキンだって言いたいわけ?」

「……誰がバイキンよ。それはコンペートー・クサレ1号とコンペートー・クサレ2号よ」

「「おいッ!!」」



あ〜〜はいはい。つまり、全員Vtuberで地味に飯食ってる画なのね。そうだよね〜〜〜ハワイアンクラブの中を映すわけにいかないもんな〜〜〜。

音声だけで、あとは背景もアニメ画か。うんうん。これなら野次馬も寄ってこないし、考えたな〜〜〜。




って、そういう問題じゃねぇぇぇぇ!!

シュールすぎんだよ絵が。

フガシ・エナジーマンとキャラメル・ヴェロニカが黒くて汚えカビの生えた金平糖こんぺいとうと飯食ってるだけの配信じゃねえか。




ウゥゥ……それにしても辛い。

肉のニオイですでに吐きそうだ……。





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