#15 告白。そして交錯。強がりのヴェロニカ@2ND



「久々に見たけどやっぱりおっきいね……」

「そ、それどころか家が……ちょっと普通じゃないんですけど」

「立派な家だな。旧家なのだな? ハル殿」

「よく分かんねえけど、武家屋敷だったらしいっす。んで、一昨年リフォームしたから和洋折衷わようせっちゅうのいいとこ取りっていえば聞こえはいいけど、実際はへんてこハウスになったって父さんがなげいていたな」



久々に帰ってきたな。一年ぶりだもんなー。



「ただいまーーーっ」

「おかえりーーーああ、リオン姉さまっ!! ヴェロニーちゃんも!! えっと、こちらは……」

「シナモンです。はじめまして。トーカさん」

「これはこれは。いつも愚兄ぐけいがお世話になっております。トーカの推測では、帰りたくねえ帰りたくねえとこの世の終わりのような顔で特急列車に乗って、お姉さま方に散々ご迷惑をお掛けしたことでしょう。遠路遥々えんろはるばるようこそお出でくださいました。このトーカが全身全霊をもってオモテナシ致す所存しょぞんにございますゆえ、至らぬ点等ございましたら、何卒ご容赦いただきま——」

「長ッ!! お前の話は長いッ!! いいから中に入れろっつうの」



居間でとりあえずくつろいでもらうか。



「父さんと母さんは?」

「お父は町内会の寄り合い。お母は……買い物。張り切ってさっき出掛けたから」

「父さんはきっと夜だな。母さんは……3時間は帰ってこないか」

「え……買い物ってそんなに掛かるものなのですか?」

「車とはいえ、往復で1時間。スーパーで知り合いにあって立ち話が1時間。買い物で1時間掛かる。よって、合計3時間だな」

「「「……」」」



父さんの場合……年末の寄り合いっていう名の昼間からの飲み会だから……帰ってこないだろうし。



うん。暇。田舎すぎて何もすることがない。

さて、何して間を持たすかな〜〜〜。



「ねえねえ、ハル君」

「おお、どうしたヴェロニー?」

「時間空いてるんだよね?」

「ああ、うん」

「ちょっと付き合ってくれないかな?」

「あ、ああ。いいぞ」

「うん、ありがとう」



シナモンちゃんとリオン姉のことはトーカに任せるとして。

ヴェロニカのやつ、何がしたいんだ〜〜〜。



「にいに、ヴェロニーちゃんを泣かせんなよ〜〜〜」

「ひ、人聞きの悪いこと言うなーーーーッ!!」







ああ……。




更地さらち




何もない。更地。結局売れなかったってことだよな。

正確に言えば……工場跡。



「何にも無くなっちゃったんだね。あたし……この辺りに部屋があったんだ」

「……ああ、うん」



……また小指か。でもまあ……誰かにすがりたいよな。

自分の生家が……無くなっていたら。



「知ってはいたんだけど……やっぱり見るとね……悲しいなぁ」

「ヴェ——美羽。ごめん。なんて声かけていいか分かんねえ。俺……」

「ううん。別になんとも思っていないよ。ただ、ちょっと気になっただけだから」



……今日は許せ。

俺じゃあ役不足かもしれないけど……昔みたいに……カッコつけさせて……くれよな。



意を決して美羽の手を…‥握りしめて。

美羽を独りにしない。シナモンちゃんもリオン姉もいるけど——たとえ今後美羽が何かの理由で独りになっても——美羽が孤立してしまっても。




——俺だけはいつまでもそばにいるから。絶対に美羽を見捨てたりしないから。




「ハル君……手温かいね」

「え? あ、手汗やばいよな。ごめん」



手を離そうとしたんだけど、今度は美羽から指を絡めてきて……。



「美羽……俺、美羽のこと好きだったんだ」

「え……?」

「小学生の頃だ。今だから話せるけど……当時はそんな言えるような勇気なんてなくて。まあ、ガキの頃の話だし、冗談だと思って聞き流してくれよな」

「……う、うん」



どこか座れる場所ないかな。ああ、ここに大きな岩がちょうど二つあるな。



「ほら、ハンカチ敷いてやるから。少し座ろうぜ」

「……うん」



座ったけどさ……思うように声が——言葉が出ないわ。ガキの頃の話なのに。笑って話せばいいのに、なんだが胸が苦しいよ……な。



「物心ついたころから、近くに美羽がいて……美羽は少しヤンチャだったよな。木に登れば降りられなくなるし、休みの日は朝から晩まで外で遊んでいたし」

「うん……でも、ハル君付き合ってくれてたじゃない」

「ああ、うん。ほら、結構アニメの話で盛り上がってたじゃん。それもあって、他のヤツと遊ぶより美羽と遊んでるほうが楽しいって」

「……あはは。アニメばっかり観て現実逃避していたから。あたしもね……あたしも……ハル君のことずっと」

「うん?」



すげえ強く握っていたのに、美羽の手から……ヘナヘナって力抜けちゃったけど……どうした?



「——うん。すごく気の合う友達だって思っていたよ」

「で、小学校入ったくらいに……美羽のこと可愛いなって思って。気づいたら好きになっていたんだよな。だから……転校するって聞いたときは……ショックで泣いたぞ」

「そうだったんだ。あたしも……あの頃はイジメられてたし、パパとママも毎日ケンカしてたし。心に余裕がなかったんだよね。でも、ハル君と一緒のときは……全部忘れて。うん、それだけ楽しかった」

「だから、あの頃の気持ち……今、言ってみようって。笑って流してくれよな。美羽、あの頃……お前が好きだった」



今さらこくってどうなるっていうんだよ。

結局、俺の自己満だよな。こんなんじゃ胸のモヤモヤなんてぜってぇ取れねえのに。



「……ぐすん」

「ま、待て。なんで泣く? 聞き流してくれって言ったじゃん」

「……今は?」

「え?」

「今は……どうなの?」



きっと……心のかせを外せば……俺は美羽のこと今でも……。



「好きだよ——友達として。だから美羽の重荷にならないから大丈夫だ。俺は俺でがんばれるし、美羽も俺に構わず……自分のやりたいように——」

「そっか。それ本心?」

「……ごめん——

「ハル君って正直だね。いいよ。それで。ハル君が自分に自信が持てるようになるまで……つし。あたしは……いつでもハル君の味方だから。自信が持てるようになるまで応援するからっ」

「……なんでだよ。なんでそうなんだよ」

「——え?」



いつもそうだ。今日は……俺が美羽を励まそうと思っていたのに。なんで逆なんだよ。なんで逆になっちまうんだよッ!!



悔しいよ。俺、やっぱり美羽のこと好きになる自信なんてないよ。

本当の……キモチを伝える資格なんてない……。

そうやって、俺を持ち上げようと……優しい笑顔で……。

底抜けに明るくて……逆境を覆せるほどのメンタルで。

俺は……その逆で。



「な、なんで泣いちゃうのよハル君……あ、あたし悪いこと言っちゃったかな」

「違う。ただ……悔しくて。悔しくてみじめで……美羽を励まそうって思っていたのに」

「ハル君はマジメなんだよ。まずは……自分が幸せだって思えるような時間を送ってみて? ハル君が笑顔だったらきっと、みんなも、あたしも幸せだから。ねっ?」

「美羽……俺、美羽のこと……」




——好きだ。




なんて言えないよ。美羽……にこれ以上負担は掛けられない。





あたしは弱い心に付け入るようなことはしない。

あの頃のあたしがそうだったように、強くなければこの世界では生きていけないもの



今、あたしがここでハル君に告白すれば、彼はきっと拒絶するだろうと思う。

だって……ハル君は底抜けに優しいから……。

あたしの重荷になるって考えちゃうでしょ。



それにきっと……傷が癒えていない。それは。葛島隆介の息の掛かった面接官がハル君の自尊信を徹底的に潰してしまって、さらに白井萌々香にトドメを刺されてしまった。

ハル君の心がいつか癒える日まで。その日まで待つからね。



だって、ハル君のキモチは目を見ればなんとなく分かる。

それが分かっただけで十分……。



あたしは……絶対にハル君のそばを離れない。

……ハル君のことはあたしが守る。




そして……ハル君に想いを告げる。




それが、ハル君のに対するあたしの回答だから。







当時遊んだ公園とかを巡って……小学校に行って……懐かしんで。

気づいたら夕暮れになっていたから、家に戻ってみたら……。



……おい。



「あ〜〜〜ハ〜〜ルさんっ! よっ!! 大将のおかえりですっ!!」

「二人とも遅いぞ〜〜〜〜ああ、これはこれは。お父様、おっとと……ぐびぐび」

「飲みっぷりがいいねぇ。酒ならいくらでもある。さあ、飲めぇぇぇ」

「ちょっと、お父さんもそんなに飲むと身体に毒ですよ」



予想を遥かに超える事態に。



「にいに〜〜〜〜お姉さま方の酔い方がとんでもないことに」

「ああ、いつもだ……」



すっかり馴染なじんでいるのな……さすがだよ。



「おい、ヴェロニー……なんで母さんに三指ついてんだよ……」



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