#14 荷物の多いアホップル@大迷惑



年末の帰省ラッシュだな。この混みようは……。

特急が取れたのは奇跡的だけど……通路挟んで左隣が不快。

が不快だ。



不快すぎぃぃぃぃぃぃぃ!!



「ハル君……左に視線向けちゃダメ」

「わ、分かってる」



前の座席にはリオン姉とシナモンちゃんが一応小声ながらもキャッキャと会話してる。うん、楽しそうでなにより。



あ〜〜あ。前の座席と俺達の席では天国と地獄だ。



「お〜い。春輔しゅんすけ、帰省か? 奇遇だな〜〜俺たちもなんだよな」

「ねえねえ、向こう着いたら忘年会兼新年会しようよ。みんなで」

「いいなそれ。よし、僕が幹事になってやる。どーんと大船に乗った気持ちで任せろよ。はーはっははは」



うるせえな。特急の中でそんな大声で会話するヤツいねえぞ。

隆介と萌々香……。もう自分たちの世界を満喫しすぎて、周りが見えていなすぎだよな。

第一、萌々香の出身は仙台じゃなかったっけ。

なんで俺たちと一緒に帰省すんだよ。



「ヴェロニー……俺、しばらく寝る。着いたら教えてくれ……」

「あたしも寝たい……もう、なんでアホップルの隣の座席なのよ」

「偶然すぎだよな……しかも、ずーっと一緒だぞ」




これは、なにか宿命なものを感じる……ったく、隆介のヤツ。

本当にムカついてきたわ。



当たり前ながら、ヴェロニーと俺は幼馴染。俺と隆介も幼馴染。すると、隆介とヴェロニーも幼馴染ってことになる。まあ、隆介はヴェロニカが美羽だってことに気づいていないけど。それに、俺と美羽は仲が良かったけど……隆介は美羽のこと散々イジめていたからな。

俺と美羽の関係と、隆介と美羽の関係では雲泥の差がある。



「うぅ……イライラする」

「まあまあ。相手にしなければいいだけだろ?」

「ああ、そうだ。もうこれしかない。ハル君にみじめな想いさせるわけにはいかないものッ!!」

「……?」



ハルきゅん〜〜〜えへえへ。着くまで手繋いでいい? 

眠くなってきちゃったぁ〜〜〜ハルきゅんの肩貸してもらって……いい?

ねえねえ、ハルきゅん……だいしゅきだよ……ヴェロニーちゃんのこと、好きにしてい・い・よ♡



……っておい。



「俺の耳元で変な妄想き立てるようなセリフ吐かないッ!!」

「だって〜〜〜隣のアホップルに見せつけてやらなきゃ気が収まらない。ふてぶてしいにも程があるわよッ!!」

「……どういうことッ!? 謎行動なんだけど」



って、あれか。意地でも隆介と萌々香に俺が幸せだってこと示すために……ヴェロニカは身体を張って、俺なんかのために……。うぅ……嫌だろうに。ごめんなぁ。

でも、やっぱり俺には無理だ。



「ヴェロニーありがとう。うぅ。俺泣きそうだよ。からの〜〜寝るッ!! 隆介と萌々香ッ!! 二度と俺に話しかけんな。」



あぁ……まだ昼前もいいとこの10時なのに……眠く……なって……きた。





すぅすぅ。





ハル君? ハ〜〜〜ル君起きてッ!!



「ん? 着いたか?」

「うん。次の駅みたい」



で、左隣の奴ら……とっくに乗降口の前かよ。



駅を降りると……温泉街……なのになんだこのクソ混雑。

どうなってんだ俺の地元。

東京ほどじゃないけど……賑わってんなぁ……家族連れやらカップルやら。子どもがやけに多いな。



「うわーーーーハルさんっ!! このポスター日本のハワイって書いてあります」

「……それな」

「確かダンスで有名だったんじゃないか? ヴェロニカは覚えていないのか?」

「ああ、あたし地元なのに行ったことない。貧乏だったから……でも、今なら行けるじゃんっ!! 観たい観たいっ!!」

「「「フラガール!!」」」



混雑の原因はそれな。

屋内外のプールをはじめ、バカでかい露天風呂とかあって。

っていう一年中常夏の複合施設。

そうそうフラダンスが映画にもなったな。



「ハル君行きたい行きたい行きたいーーーーッ」

「温泉か〜〜〜〜ハル殿、ぜひとも一緒にひとっ風呂浴びようぞ」

「いや、リオン姉、そろそろ自分が女だという自覚を……」

「わ、わたしも……行ってみたい……です。そ、その……こ、混浴」



って、混浴ってわけじゃないからねっ!!

露天風呂の裸のお付き合いは男女別だからねっ!? 

た、たしかに〜〜? 水着着用のプールとか? なんならウォータースライダーでポロリとか想像しているわけじゃないからねっ!?



キャーーーっ!! み、水着がーーーハル君ッ!! 

お、おねがい一緒に探してぇぇッ!!

おお、ヴェロニー……意外と豊満なんだな……そ、そのおっぱ——。



「ハルさん……バブルスライムになっていますね……」

「どうしたのだろうな。ハル殿……温泉に入る前にのぼせたか?」

「……ハル君ッ!? リオン姉で妄想膨らますとか最低だからねッ! めッ! よ? めッ!」



い、いや……リオン姉で想像したんじゃなくて、あなたですからね?

一番そういうことやりそうなのあなたですからね?

お、俺は不可抗力ってもので……ほらウォータースライダーの水の流れがすごくて、水着の紐がほどけてしまうなんてことは……俺の責任ではないですからねっ?



「まあ、一度家に寄って、明日にでも行こうか。おそらく割引券とか実家に余ってるだろうし。トーカも行きたいって騒ぐだろうし」

「そ、そうね……ああ、ハルきゅんと……裸の触れ合い……あたしが溺れそうなところをハルきゅんが……『大丈夫かい? ヴェロニー』なんつってなんつってっ!! キャッ!! 恥ずかしいじゃない——もうハル君ったらっ!!」

「ん? ヴェロニー? ブツブツ言ってどうした?」

「……小声ですけど漏れ出てますからね? それに、その顔はハルさんの比じゃないですから」

「シナモンちゃん何か言った?」

「あああ〜〜〜いえいえいえいえ。なんでもないです。それよりも、わたしまでお世話になっちゃって申し訳ないです」

「なに言ってんだよ。シナモンちゃんにも常日頃お世話になってるし。母さんも賑やかでいいねって喜んでいるくらいだから。気にすんなって」

「すみません」



で、アホップルとバス停で待つこと30分。

あ、間違ってないからね? 30分とか普通に待つからね?

なんなら、30分って早いほうだからね?



「ね、ねえ。ハル君。タクシーってなんで停まっていないの? おかしくない?」

「田舎だから絶対数少ない上に、例の帰省ラッシュ+日本のハワイに行く家族連れにすべて持っていかれて、バスのほうが早いって算段だ。ってちゃっかり密着すんなよ、萌々香……」

「ちょっと、うちのハル君にちょっかい出さないでくれる? この淫乱女」

「なによ……そっちこそあたしのハル君に指一本触れないでくれる? 学習帳みたいな名前して」

「はぁ?? あたしはあんたみたいな萌々香なんていう外見も内面も全く萌えない女のような反比例的名前じゃありませんからッ!?」

「言わせておけば……このヴェロニカッ!!」

「いつでも受けて立つわよ、ビッ◯」



はじまったよ。二人とも仲が悪いのは仕方ないとして……こんな田舎のど真ん中で騒ぐなよな。



「ヴェロニカ、落ち着け。平常心がなければ策を誤るぞ」

「そうですよ〜〜確かに穏やかではないですけど、今日はハルさんの自宅にお世話になるんですから。迷惑かけちゃダメですからね?」

「わ、分かってるわよ……」

「……萌々香、僕に恥をかかせるな。勝負したいなら明日温泉で対決でもしたらどうだ?」

「……いい考えね」

「あーあー聞こえない聞こえない。クズ男の言葉なんてキコエナイ」

「君たちがプールに行くなら、僕たちも行くよ。僕は寛容だからこの前のことも水に流そう。プールだけに——」



お、バスだ。よし、すげえ寒いから早く乗り込もう。



「ヴェロニカ、奥の席に乗ろうぜ。割とここから長旅だからな。シナモンちゃんとリオン姉も。ほら、キャリーケースは俺が運ぶから。足元気をつけてな」

「ハルさん優しいですね。紳士的でカッコいい」

「男のかがみだな。ハル殿、私は大丈夫だ。これも修行の一環だからな」

「ハル君ありがと〜〜〜〜」



いやいや。こんな田舎に来てもらってむしろ申し訳ないよ。

交通の便が悪すぎて泣けてくるしな。



「おい、萌々香ッ!! 僕の荷物上げるの手伝えって。重すぎて持ち上がらないぞ」

「そ、そんなこと言っても……重ッ!? な、なに入ってんのよッ!?」

「家電だ。高級家電でなければ、生活に支障をきたすだろうッ!?」

「ちょ、ちょっと〜〜〜きゃぁぁぁ」



荷物が激しく散乱。クソ迷惑だなッ!!



ドライヤーから美顔器……アイロンから、ノートパソコン……テレビに……す、炊飯器!?

どうやって入ってたんだよ。

馬鹿なのか隆介コイツ……。



で、やっと出発してバスに揺られること30分。

先に隆介と萌々香がまた四苦八苦して降りて……っていちいち大騒ぎすんなよ。

よく考えたらそんな大荷物持っているくせに、なんで車で来なかったんだよ。

アホなのか?

このアホップルがッ!!

ああ、イライラする。



バスを降りて目の前が俺の家。



「は?」

「な、なんだとッ!?」



そんなに驚くことなのか?

シナモンちゃんとリオン姉さんが身をらせたが……。



「「い、家と庭が広すぎーーーーッ!!」」


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