#13 強がりのヴェロニカ@1st



で。



トーカのヤツ、年末秒読み落語会の日まで家に泊まったわけだけど。

ヴェロニカが何かと世話を焼いてくれた。

んで、ヴェロニカに対する好感度爆上げ。もちろんトーカの。

……俺にヴェロニカと結婚しろとかワケのわからないこと言いやがって。

したくてもできねえっつうの。




年末秒読みって大晦日のカウントダウンかと思ったら違うのな。大晦日まで秒読みって意味らしい。どう考えても年越しをみんなで祝おうって思うだろ、普通。

ヴェロニカが翌日に早速チケットを取ってきて、トーカと二人で驚いたけど。



「ヴェロニーちゃん本当にありがとうございます」

「いいってことよっ! それより、ちゃんとおうちには電話したの?」

「ああ、俺から説明はしておいた。母さんだったから、どうにか説得できたけど」

「そう。うん、なら大丈夫ね」



ちなみに、俺は落語がキライではないが苦手だ。どうしても眠くなってしまう。んで、それはヴェロニカも同じだったようで……。別に一人でも大丈夫だろって俺は思うんだけど、それはダメだって。で、リオン姉が付き添ってくれることに。



「リオン姉、なんかすみません」

「いやいや。私も落語には興味があるから。いい機会だぞ」

「リオン姉さま、トーカにお付き合い頂きありがとうございます」

「ふむ。ハル殿の妹君はしっかりしておられる。よし、今日は私がトーカ殿を受け持つ。安心して楽しむといい」



はい。ヴェロニカ以上に相性の良い人物登場。すっかり懐いたようで腕組みなんてしちゃって。劇場の中に入る二人を見送って……長いし、俺は一度帰るかな。



ん?



な、なんで俺の腕に腕を絡めてくる?



「ハ〜〜〜ルきゅん! 年末デートしよっ♪」

「ク、クリスマス以上にどこも混んでるだろ……」

「カフェいこカフェ」

「なんで……カフェに行きたいんだよ……普段は安いカフェ行かねえって断言してるじゃん」

「ご、誤解があるようだね。ハルきゅん。安いカフェがキライなんじゃなくて、行くと『ヴェロニーだ』って後ろ指差されて落ち着かないのが嫌なだけだよぉ。ええ。個室のあるカフェなら行くって意味で」



……似ているからな。Vtuberキャラメル・ヴェロニカに激似。

っていうか本人なんだから当たり前だけど。



「あ〜〜はいはい。で、今日はどうした?」

「うん。ハル君と行ってみたいカフェがあったから」




で、連れてこられた場所は星空カフェ。

照明はテーブルの上にキャンドルが置かれているだけ。スクリーンに映る満点の星空の天井がわずかにきらめいているのが際立つんだな。プラネタリウムみたいな感じよりかは、もう少し絵画的っていうのかな。



まあ、女子ウケばっちりなカフェだわな。



「で……なんでここに来たかったんだ?」

「トーカちゃんと話していたら思い出しちゃったから」

「……?」

「ほら、小学校のとき、ハル君とお別れする前はあたしも福島にいたじゃない。そこの星空はすっごくキレイだったなーって。最後の夜に見た星空を今でも思い出すことがあるんだ」

「ああ……」



二人でカフェラテをオーダーしたら、ウェイターが早々に持ってきてくれた。

飲んだら冷たい身体にみるのよ。今日は寒いからすげえ温まるわ〜〜〜。

ヴェロニカも同じみたいで……って、なんで泣きそうなんだよ。

ヴェロニカは感傷的センチメンタルだからか、今にも泣きくずれそうな顔してる。

いや、今日に限ったことじゃないな。ここ数日ずっとそうだ。



冬花トーカが原因……か。



父さんと喧嘩して家出してきたなんて言うから。余計に昔、というか家族を思い出してるんだろうな。最後の夜……か。

地元はさ……星がすげえキレイだったから。



「キレイだね……ここも良いけど……また見たいなぁ。あの頃の空」

「……聞いていいのか分からないけど」



傷つけるかな。でも、俺もヴェロニカの力になってやりたいんだよな。

だから、いつか聞いておかないと、って思ってた。

ヴェロニカ——美羽みう自身がどう考えているのか。



「両親は……その、なんだ。見つかっていない?」

「うん。生死不明。でも、それはもう……あんまり考えないことにしてるっ♪」

「……そっか。探したいとか思わないのか?」

「……探した。けど、見つからなかったの。いいんだ。あたしにはもう家族がいっぱいいるし」



無理やり笑顔を作らなくてもいいのに。

がんばって明るく振る舞わなくてもいいのに。

俺には……気を使わずに泣いていいのに。



って、俺……自意識過剰なのかな。

あの頃の俺みたいに……ヴェロニカの目には映るかな……。



「俺、ヴェロニカの力になりたいんだ。だから——」

「ありがとう。嬉しいな〜〜〜っ♪ そんな優しい顔のハル君、久々に見たから。ほんと、小学生から変わってないな〜〜〜っ。ねえねえ、地元は結構変わっちゃった?」

「いや。近所にスーパーできたくらい。あとは何も変わんねー田舎だよ」

「いいなぁ。あたし、お正月の帰省先もないし……ほら、地元に戻る理由がなくなっちゃったからさ。また行きたいなぁ」



そうだよな。生まれ故郷だし。辛いこともあったろうけど……俺はヴェロニカじゃないから分からないけど……きっと地元愛は少なからずあるだろうし。



「その……思い出して辛くないのか? 今だからくけどショックだったんだろ?」

「当時はね。でも、もう23だよ? さすがにそこまで傷が癒えないとかはないよ。ただ、たまに思い出すだけで……」

「ああ。トーカを見て思い出した?」

「ふふ。うん。そう……ちょっと老婆心ろうばしんが過ぎたかな」

「んなことはないだろ。ヴェロニーは正しいよ……そっか……」



俺は……ヴェロニカはともかく、リオン姉やシナモンちゃんと出会って日は浅いけど……すげえ良いヤツらで……こんな家族もいいよなって思って。

だから、俺もこういうきずなは大事にしたい。



だから、世話になっているヴェロニカに俺ができることと言えば……。



「そんなに星空見たかったら……うちに来るか? 正月」

「……え? ええええっ!! いいのッ!? ほんとにッ!?」

「あ、ああ」



不本意だけどな……実家に帰っても就職していない俺なんて……親戚一同に白い目で見られるのがオチだし。そんな俺がヴェロニカみたいな女を連れて帰ったら……ドン引き……いや、就職しろってうるさいだろうし。

でも、ヴェロニカが生まれ故郷を懐かしんで、行ってみたいっていうんなら連れていってやりたいし。




「嬉しい〜〜〜〜っ!! ねえねえ、幼馴染ごっこしようよ」

「……なにそれ怖い」

「なんで怖いのよ〜〜〜っ!! ほら、小学校行ったり、公園で遊んだりさ。楽しみだなぁ〜〜〜」



——言うと思った。



田舎だから目立つのよ。特に若者はさ……。すぐに尾ひれがついて『結婚するんだって』、とかって噂が流れて俺凹む。

ヴェロニカとは付き合ってもいないし、なんなら雇用主と労働者だからな俺。

結婚なんてしたくでもできねえのよ。

すげえ怖い。田舎の人の偏った情報収集力怖いよぉ〜〜〜。



「ハル君と見た星空も……キレイだったなぁ」

「……え? 見たっけ?」

「ひど〜〜〜〜いっ! 忘れちゃったとか。ほら、3年生の頃」

「ああ……大晦日の夜の元朝参りの空か」

「そうそう。お互いお母さんに連れられて……だったけど」



そういえばそうだ。うちの母さんは美羽のこと覚えているかな。

だとすれば、なんとなく連れて帰りやすいというか。



しばらくヴェロニカと他愛もない話をして、カフェを出たらちょうどリオン姉からメッセージを受信したみたいだな。

終わって今、団子食べてるって。



迎えに行くとするか。



んで、迎えに行ってみたらリオン姉とすこぶる仲が良くなったトーカが団子食ってた。しかも、5本も。

まさか、ご馳走ちそうになったりしてないよな!!



「トーカ、リオン姉に迷惑掛けてないよな?」

「ああ、ハル殿。迷惑なんてとんでもない。女子高生がモノを食べなければそれは病気だ。私が食べろと言ったんだ。気にしないで欲しい」

「……すみません。何から何まで……おい、ちゃんとお礼したか?」

「もちろんだよ。ああ、それと年末年始は実家に来て欲しいってお願いしたの」

「……は?」

「だから、リオン姉さんに来てほしいなって。お雑煮美味しいよって言ったら、ぜひご馳走になりたいって」



えっと……もしかすると、三姉妹漏れなく家に来る感じなの……い、いや嬉しいけど。こ、怖い。だって、父さんも母さんも張り切っちゃうだろ……それで、地獄の正月飲みになったら……。



考えただけでも身震いする……。

父さん……酒飲みが大好きだから……。



*



翌日早朝。




上野駅まで見送って……改札の前でバイバイだな。

ヴェロニカとリオン姉まで来てもらっちゃって。悪いな。


数日間だけど、トーカ本人は楽しかったみたいだし。

俺も……なんだかんだでトーカの顔が見られて良かったよ。



「トーカ気をつけて帰れよ。着いたらちゃんと電話をして——」

「にいに、分かってるよ。いつからそんなにシスコンになったの? ああ、分かった。トーカの推理だと、美女二人に見られてここは妹想いを演じなければ可愛いヴェロニーちゃんに嫌われてしまい、事がうまく運ばなくなってしまうゆえに『うん、妹の身を嘘でも案じてみよう』と躍起やっきになって口酸っぱく——」

「長ッ!! お前の話は——」

「にいに、嘘でもありがと。数日間楽しかった。リオン姉さんもヴェロ姉さんも。良い青春の思い出が出来ました。トーカは、一生を忘れません」



そんなに深々と頭下げやがって。お前こそ、たんだろうが。

立場をわきまえられるようになって……成長しやがって。



——しばらく見ない間に。



「気をつけてな。俺は……お前の兄として言うが、また嫌なことがあったらいつでも来い」

「リオン姉さん、ヴェロ姉さん……にいにをよろしくお願いします。にいには……きっと独りじゃ生きていけないですから」



リオン姉もヴェロニカも苦笑いだよ。

ったく、マセガキが。



じゃあな。気をつけて帰れよ。




何度もこっち振り返んなよ。すぐに会えるだろ。





またな。トーカ。



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