第42話 道場破り的な何か

スパルタスの国にあるスラドの街。

この街の治安は良くない。というか、スパルタスの国全体で治安が良いとは言えない。

ここでは武力がものを言う国で、頻繁に喧嘩だったり決闘だったりが行われていた。


そんなスラドの街のギルド内に4人組が入ってきた。

男が1人、女が3人。

男は若く、年の頃は16、7だろうか。それなりに鍛えた身体付き、高そうな長剣を腰に差し、若者特有にありがちな怖いものなど何も無い。といった雰囲気を醸し出していた。


女の方は闘えるようには見えず、ただ付き人のようだった。


そんな4人組をギルドに屯していた人間は一瞥する。

スラドの街には似合わなそうなその4人組。こんな寂れたギルドに何の用だ?と昼間から何もせずに酒を飲んでいた男達は思った。


「このギルド、いやこの街で一番強い奴を出せ!」


ギルドに入ってきた若い男が大きな声で言う。

その場にいた全員が突然発せられた言葉を飲み込めずポカンとしていた。


「聞こえないのか? もう一度言う、この街で一番強い奴を出せ。俺はテイヘの街の闘技場で最強の男だ。この国は強さがすべてなんだろう?とりあえずこの街から始めて、ゆくゆくはこの国のトップに立つ!」


一瞬の静寂、そして


「プッ…ククク」

「ふはふふふふふ」

「「ぎゃーはっはっはっはひひひは!」」


爆笑である。


「何がおかしい!?」

「いやぁ、悪いな兄ちゃん。クク…みんな悪気がある訳じゃあ無いんだ」

「黙れ! なら何故笑う!」

「ケメン様を笑うなんて許さないわ!」

「そうよ!そうよ!」

「コイツら殺されたいのよ、ケメン様」

「あぁ、はいはい。んで、1番強い奴を出せって?」

「そうだ!早くしろ!」


腕に自信がある奴が、この国で大成しようと来る事は割と多い。

実際にこのギルドにもこういった腕自慢の人間は珍しく無い。が、このギルドにいる人間は皆腕自慢な人間ばかりである。

この若者を見るに、明らかに実力が足りて無いと見た。それなのにあの大言壮語である。だから爆笑した。


「まぁ、ちょっと待ってろ。そろそろ来る」

「何?」

「兄ちゃんが望んでる街で1番強い奴だよ」


すると、ギルドの扉が開かれ男が1人入ってくる。

最初の印象は「黒」だった。

髪も目の色も身に纏う服も全て黒だった。


そんな黒尽くめの男がギルドに入ってくると、騒がしかったギルド内が静かになる。

その男に対する緊張、警戒、畏怖、尊敬。色々な感情が混じっていた。


そして、黒い男が声を発する。


「…何かあったのか?」

「アンタに客だぜ」

「俺に客…?」


黒い男が周りを見渡すと見たことの無い4人組がいる。

客はコイツらか、と推測し黒い男は歩み寄る。


「俺に用だって?」


4人組の若い男ケメンは近くに来た黒い男を見て息を呑む。

年は自分と同じかそれより若い風貌。

ただ、その気配はまるで歴戦の英雄を思わせる不思議な圧がある。

そして抜き身の刃物のような雰囲気もあり、気を抜くと殺されるような錯覚すら覚えた。


「お、お前がこの街で1番強いのか?」

「俺が?誰がそんな事を?」

「そ、そ、そこの坊主のオッサンが言っていたそ!」


黒い男はその坊主の中年を横目に見る。


「へへ、悪ぃ。だが、1番強いのはアンタだろ?」

「…それに近いのは認めるが、まだ俺は納得はしていない」

「まぁ、そう言うなって」


黒い男はケメンを再度見る。


「で、お前はそんな俺に何の用だって?」

「お、お前を倒して俺がこの街で最強になってやる!!」


それを聞いて溜め息を漏らす黒い男。

それもそうだろう、実際にこのような輩は珍しくない。

それを毎回相手をしている黒い男は心底面倒といった様相だった。


「毎回、毎回いい加減にしてくれ…せめてそれなりに使う奴が来たら俺が相手にするんだが…」

「なっ!? 舐めるな! 俺はテイヘで最強なんだぞ!」

「テイヘ…?お前が最強?」


黒い男はその街の名前を知らなかったのか、周りに確認を取ろうと見渡す。

さっきの坊主頭の中年がそんな黒い男を見て答える。


「あぁ、アンタは知らないか。5年前にスラドに来てから何処にも行ってねぇもんな。テイヘってのは隣の国で大きな街だな」

「それで、そこの闘技場ってのは?」

「まぁ…アレだよ。話が本当ならそこの兄ちゃんが最強だって事だよ」


なるほど、かなりの低レベルと言う事か。と暗に察した黒い男はケメンに告げる。


「わかった。今すぐここで済まそう」

「何だと?お前は丸腰じゃないか!」

「心配するな俺は素手が基本だ」

「グッ、だが今すぐココでとは…」

「良いから来い。先手はくれてやる」

「おのれっ!舐めるな!どうなっても知らんぞっ!」


意を決したケメンは抜刀し、上段から斜めに袈裟斬りを繰り出す。

その速度は、確かに言うだけはある中々の鋭さを持っていた。

だか、ケメンは次の瞬間信じられない物を見る。


振り下ろした剣が2

押しても引いてもびくともしない。


「修行しなおせ」


摘まれた剣をどうにかしようともがいていたケメンに蹴りが放たれる。

正確には蹴りが放たれたのだろうという予測だ。

何故なら、気付いたらケメンは吹き飛び入り口の扉を破壊して通りに転がっていた。そして、黒い男は蹴り出した体勢で残心していたから。


そして、黒い男は言う。


「この程度なら、お前らの誰でも良かっただろう」

「まぁな。でも面白そうだったからよ」

「そうそう、あんな感じの世間知らずは通過儀礼としてやられなきゃダメだよなぁ」

「今回は賭けにすらならなかったな」


黒い男が再度溜め息をつく。

それを見た坊主の中年が宥めるように言う。







「まぁ、有名税ってやつだな。今度は強そうな奴にするからよぉ。機嫌直せよザク」








★★★★★★★★★★★★★★★★★


年内の更新はここまでになります。

良いお年を


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何処までも昇りつめたい物語〜異世界でも最強を目指す男〜 @ushi9

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