第三話 海を渡る神と信仰
「文化というのは、
それは解る。
南蛮渡来の代物とか、ハロウィンとか、クリスマスとか、全部日本の外からやってきたものだ。
解る、解らないわけがない。
けど、
「君の地元でいえば、既に二つのものが海を越えている。ひとつは
「……火山性ガスを出す岩のこと、だよな?」
「それは違うよ、きりたん」
小春が、たまりかねたように口を挟んできた。
どうやら彼女も、知識を披露したくて我慢がならなかったらしい。
「殺生石ってのは、大昔、日本へとやってきた大妖怪、〝
九尾の狐ってのは、なんだ?
「
センセーの説明はわかりやすかったが、幾つか引っかかるところもあった。
「白面ってのは、なんですか?」
「顔が白く、毛並みは金色――あるいは赤で、九本の尻尾があったことから、白面金毛九尾の狐と呼ばれている。けれど、本来九尾の狐は
それが、どうして悪いやつに?
「玉藻の前が、時の権力者を
「…………」
「君に身近な
「あ」
思わず、声が出た。
そうだ。
仏教も
海を越えて、神がやってきたと言えるんじゃないか?
「解ってくれたようだね。とくにこの都市、永崎ではいくつもの受難の歴史があった。切支丹であることは隠さねばならず、やがて隠れキリシタンが生まれた。彼らは当時の権力者から大変に残酷な仕打ちを受けたわけだが……いや、いまはいい。話を戻そう」
一つ息を吐いて、センセーは仕切り直す。
「隠れキリシタンが
即ち。
「〝まさんの実〟とね」
§§
「つ、つまり」
俺は、興奮とも恐怖ともつかない感情が、腹の奥底からあふれてくるのに任せて、どもりながらも結論を吐き出した。
「
「違う」
しかし、それは一刀のもとに斬り捨てられてしまう。
センセーの眼差しは、どこまでも真剣で、そして危機感に揺れていた。
「たしかに、状況はそれを示している。しかし違う。二十六聖人や拷問石という歴史が証明するように、彼らは解釈が異なったとはいえ、
そうだ、ミサキと狗神。
二十六人の亡霊と、二十六人の聖人。
同じものなんじゃないのか?
「違う」
しかし、先生は強固に否定を繰り返す。
「あるいは根っこは同じなのかも知れない。だとしても、これは
神と同等の格を有し。
人に
「神が
「話を戻しますがね」
いつの間にかくわえ煙草をして、黙ってこちらの様子をうかがっていた海藤さんが。
おもむろに口を開いた。
「わたしはただのゴシップ誌のライターなんで、妖怪がどうのこうのなんて話にゃ興味がないんですが。どうやら来歴の話をしてらっしゃる、というのはわかりやす」
だから。
「隠すもんでもありやせんし、わたしも腹を割って話しましょう。こいつは特ダネなんですが……」
口元を卑屈に歪ませて、告げた。
「犬辺野が、本当はどこからやってきたか――お三方は、興味がありませんかい? 報酬次第では、お話しますぜ?」
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