第28話 ナマケモノ家を建てる

 家を建てるってほんっとに大変。でも、我が家の場合、なんだか特殊な大変さも加わっていたような。

 とはいえ、ナマケモノも家を建てられました。目まぐるしくて、じっくり振り返ることもなかったけれど、家が建ってもうすぐ2年が経とうとしている。色々あったけど、建ててよかったと、今のところは思っている。

 

 そもそも、家を建てようと思った大きな理由であった、難病になった夫が家で働けるようにということも、着々と順調に進んでいる。やはり、夫は、人と会って関わっているほうが、イキイキとしている気がする。顔の肌色が僅かに明るくなっている気がする。一時は、ほとんどの時間を横になって携帯を眺めて過ごしている日々もあった。家を建て、併せて狭いながらもお店という場所もできあがり、やらなきゃいけないという思いだけでなく、やりたい事も出てきているようである。家を建てる過程での色んな問題のおかげで、多方面に連絡をとり、人と関わって解決してきたことで、お店をやることへの自信や意欲も増しているように見える。

 と、夫のために健気に頑張ったわたしのように書いてしまったが、そんな殊勝なことではない。そもそもわたしがナマケモノであることが功を奏しての結果である部分がある。もちろん、夫にも娘にも日々楽しいと思って生きてほしいという思いは強くある。しかし、ナマケモノは、それと同じくらい、自分も楽しくラクに生きたいのだ。働けなくなった夫にもなんかやってほしいなーひとりで頑張るのは大変だなーなんとかならないかなーとの思いからのひと頑張りで、結果、夫もイキイキ、娘もウキウキが付いてきた。

 お店の外観は、問題の担当Mさんが、できます!と言っていたようには全くできず、希望通りにならなかったことに、夫は相当がっかりしていた。その代わり内装は、英国風に品よくエレガントに、かつ、男性が立ってもカッコよくなるようなお店という希望に近づくよう、家族みんなで考え、実現できたと思う。お店に関して夫は、予想以上にしっかりと頑張っている。家造りの時の図面メモの時みたいに、ナマケモノとしては、そこまてするぅ?なことも、怠けずまめにやっている。そして人当たりがよく笑顔に嘘がない。お店に向いているかもしれない。数字には少し弱いので、そこはちょこっとナマケモノが口をだす。

 紅茶屋さんとして、細やかながらお店を始めることができた。体調を見ながらボチボチとなので、儲けはまだまだだが、なにより、夫がイキイキとがんばっているのでよかった。これは後で思ったのだけど、そんな夫の姿を娘が見られることも、よかったと思う。娘が4、5歳の頃に夫が怪我をして、それきり杖の生活なので、父親が走っているのもジャンプしているのも記憶にないようである。心優しい娘は、小さな時から夫を気遣い、夫の体の痛い場所を、わたしより早く覚えて、ママ、そっち側は痛いほうだから触っちゃダメ!と注意されたりした。娘は、仕事をする父親を見て、どこか誇らしさを感じているように思う。そんな意味でも、家が建てられてよかったと思う。

 

 そういえば、家を建てるのには大反対だったうちの親は、今のローンの金利やら、減税やら給付金の制度やら、都度都度、話題に上げていたら、「家は今が建てどきかもねー」と言い出した。親の意見もそんなもんです。

 親達の経験の範囲では色々助言をもらえるのは確かだけど、情報がどれだけアップデートされた上での助言かは、わからないのである。

 こちらが全てを調べ尽くして、親にも説明して、さぁどぉ思う?だったら、それなりの意見は聞けるかもしれないが、こちらも進めながら色々な情報を得ていき、理解していく状況だったので、親の意見や親の説得は一旦置いておいて正解だったかも。

 家を建てるにあたって、比較的大きな心配事であったご近所に関しても、ありがたいことに、とても恵まれていると思う。分譲地の他の区画も次々に家が建ち、入居してくるご夫婦、ご家族も、ことごとくみんないい人たちだった。みんなそれぞれに、興味深い個性が見え隠れしていたり、まだ見えない何かがあるかもしれないが、現代のご近所付き合いの範囲では、非常に感じが良い人たちばかりで安心した。夫は、ちょっと外に出ると、なかなか帰ってこない。隣のご主人、向かいのおじさま、裏の奥さん、何軒か隣のご夫婦と、道で会っては立ち話している。ときには、散歩で通りかかった初めての方と話し込んでることもある。ご近所付き合い面倒くさいな…と思っていたナマケモノも、そんな夫のおかげで、なんだか一緒に立ち話したりしている。しかも、なんか楽しい。ここに建ててよかった。それはこの分譲地の情報を真っ先にくれた担当者Mさんのおかげである。縁と運と巡り合わせを感じる。

 思いつきで家を建ててみた結果、大変な思いもしたが、想定外の良い結果も付いてきた。


 大きなハウスメーカーで家を建てたメリットとして、家の保証のために、ハウスメーカーが定期的に点検をしてくれる。初期は無償で直してくれたりする。先日2回目の点検があって、ちょっとだけ驚く事実がまたまた判明した。

 引き渡し時に間に合わなかったドアの取手だが、現在付いている取手は、正規の取手ではなかったらしい。どうも、取手だけどうしても間に合わなかったようで、用意できるまでと、代わりのモノを付けてあったみたい。代替え品がそのままになっていることに、点検の人が気がついて、慌てて交換してくれるという。正規の取手を知らない我々は、とくになんの不自由もなく暮らしていたので、なんか違うんですか?という感じ。耐久性とかデザイン性とかが違うらしい。

 わたしは、後で、点検に立ち会った夫から、その事実を聞いた。日頃、取手で困ってはなかったけど、なんかモヤっとする。そもそも、付いてる取手が代替え品だなんて聞いてないよね?と夫に言うと、ぼく聞いたかもしれない…と。そうか、夫からわたしのラインで途絶えいることもあるのか。もしくは、わたしの記憶が消えている可能性もある。1年以上経って、こんな事実の発覚がまだあるのかと思うが、発覚しただけよしとする。

 翌日、点検の人が正規品の取手を持参し、すぐに取り替えてくれると言ったが、夫が断ったらしい。見た目が、代替え品のほうが好みだったらしい。正規品を置いていってくれたので、見てみると、どっちでもいい感じ…。なんなら、黙って変わっていてもナマケモノは気がつかない可能性の方が高い。代替え品が傷んできたら交換すればいいか。

 こんな小さな事実発覚が、まだまだあるのかもしれない。今後も楽しみにしておこう。


 夢や目標は、言葉にすると実現するというけれど、25年以上も前に書いた、思いもしない夢が思いもよらず叶った。


 これからは、「ナマケモノ持ち家を維持する」を目標としてナマケモノなりに頑張るのです。

 でも、相変わらず、なんとかラクしたいなー、毎日仕事に行くの面倒くさいなーと、毎朝思うナマケモノであった。

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ナマケモノ家を建てる @_fly_

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