第9話 運と勘

 我が家の中では第二候補としていたハウスメーカーの営業マンが、ナマケモノが転職して収入アップしてから、やる気をガンガン見せてきた。当初は、金額も高いし家の雰囲気も好みと違うし、我々もちょっとここはダメそうだねという感じだった。

 しかし、その営業マンMさんは、土地をいくつも探して提案してくれたり、我々の移り住んだ市の辺りで良さそうな土地がないか、実際に歩き回って探してもくれた。  

 それと時を同じくして、第一候補のハウスメーカーの営業マンが配置換えになり、担当が違う人に変わってしまった。そこからどうも、第一候補のハウスメーカーさんとしっくりこなくなるのです。

 今思えば、これも縁とか運命とかなんだろうかと思う。

 そんな中、Mさんが持ってきた自社分譲地情報。場所はなんと、引っ越す前に住んでいた家のすぐ近くで、子供の元通っていた小学校の学区内だった。

 新たな土地で暮らして探して半年間、土地探しに行き詰まり、田舎独特なのか、よそ者は受け入れないような疎外感を感じていた頃に、その分譲地の情報。

 しかも、お店をやる上で、かなり譲れない条件としていた、主要道路から一本入ってわかりやすい場所という条件もクリアしている。眺めは特に良くないので、そこはシフトチェンジして、街中のホッとできる、少しオシャレな脱日常なお店を目指すのはどうだろう。

 希望するお店や家の雰囲気もどうにか叶えられなくもないと営業マンMさんは言う。

 ナマケモノは、ここでまた一大決心をする。

 わたしは、無意識のうちに、周りからどう思われるかを加味して、自分の方向性を決めていたようで、わざわざ子供の転校までして、また元の場所の近くに戻るという選択肢は無しでしょと無条件で思っていた。決定後に実際に数人に言われたのだが、転校までして何のために引っ越したの?と思われたくなかったのだ。

 そんな時、夫は、周りからの目はお構いなしに、あの場所ならいいんじゃないかなと、自分たちにとってどうなのかをフラットに考えている。そんな夫を見て、ナマケモノは、あらためて考えた。

 そもそも、住み心地を感じてみるのも含めて田舎に越してきた。その生活に慣れてはきているものの不便さに勝るほどの眺めや暖かさがあるかといったら、「ない」。微妙でもなく「ない」と思えた。自分の中に、明確な理由があれば、周りにどう思われるなんてどうでもいいのだ。家を建てるという大きな決断を前に、周りからの視線などに振り回されてはいけないのだ。

 聞き分けのいい我が娘ちゃんも、転校は二度とイヤだけど、前の学校に戻るならいいと言っている。

 ウジウジ系のわたしと比べ、夫は、もどったっていいじゃない、何でダメ?という感じ。

 確かにそう。人から目線まで考えてたら、今の状況で家なんか建てられないし、我々の家族のしあわせが見えなくなる。

 戻るというのもアリだという考えに達した。


 あとは、金額である。市街地近くの住宅街で地価は高めな場所のはず。まだ販売前で未確定ながら大体の価格を聞くと、当初考えた土地の希望額の倍近い。しかし、この半年間、値段が低めの色々な土地を見てきて、安い土地は安いなりに、色々な難があったり、後にお金がかかったりする。お店をやることも含めて、それを考えると、分譲地として整備されている土地を買うほうが、我が家にとっては結果的にはよいのかもと考えた。

 営業マンMさんの、自社土地なので建物のほうで値引きできるとの甘い言葉に最後の背中を押されて、その土地で住宅兼店舗の建設を具体的に考えるようになった。

 第一候補のハウスメーカーは、土地がないと家の方の打ち合わせもできないとのこと。その土地や立地に合わせて間取りなども考えてくれるので、とても良いのだけど、土地がないと何も進まない。第二候補のハウスメーカーは、とりあえず仮の土地でも家の打ち合わせも始められるとのことで、建物のことも考えつつ土地探しも継続できた。

 そういったことからも流れが一気に第二候補のハウスメーカーの方に向いていった。


 本当に家を建てることができそうな気がしてきたナマケモノ。でも、家を建てるのは、そんなに簡単なことではなかったのです。

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