林田ガイコツと決めごと その①

「いただきます」


笹本 遊佐ゆうさは昼食を目の前に、手を合わせてそう呟いた。

高校2年生になって初めての昼食ではあるが、教室の中にはいくつかのグループもう形成されている。今日から一年を通して、このグループたちは崩壊と再結成を繰り返しながら、やがて完成体となる。


「こんなにも丁寧な‘いただきます’は久しぶりに見た気がするよ」


隣でおにぎりを頬張りながら田中は言った。


「喋るか食べるのどっちかにしろよ」


「田中の親かよ、笹本」


笑みをこぼしながら林田がそうツッコミを入れた。


「俺が田中の親だったら間違っても子供に効用ゆーてぃりてぃなんて名前は付けない」


「んぉい~~それだけは言わんでくれ」


「笹本! さすがにそこまで言うと、てぃりてぃが可哀そうだろ」


林田は田中に追撃を食らわす。にしても…………。


「田中と林田さぁ。意気投合するの早くない?」


確かふたりは去年、別々のクラス……だよな。


「昼休みの前に林田とちょろっと話したんだよ。笹本、居なかったろ?」


「そういやなんで教室にいなかったの?」


田中に続いて、林田も質問した。


「委員会だよ、体育委員」


体力テストの手伝いやらで、体育委員は全員借り出されているわけだ。


「やっぱり笹本ってちゃんとしてるよな」


「わかるかも、笹本ってちゃんとしてる」


チャントシテル? どういう意味だ?


「ドユコト?」


「ほら、さっきのいただきますとか、委員会とか。あ! あと部活でも。俺らのキャプテンじゃん」


「田中と笹本って同じ部活なの?何部?」


林田は俺に視線を送った。


「バスケ部だよ」


「はぇぇ」


林田の目を点にして驚いていた。彼に目などないが。


「知らんかった」


と林田は続けた。てか、知らなかったのかよ。


「去年の体育の時間とか、俺がバスケしてるの見てなんも思わなかったの?」


「うまいなぁ、としか」


「えぇ」


驚きたいのはこっちだ。と、ふと田中のいる方角へ目をやると。笑いをごまかすように三個目のおにぎりを頬張っていた。てぃりてぃ野郎が。



「ごちそうさまでした」


弁当箱を閉じて手を合わせると俺はそう言った。

すると田中が林田にほら見ろといった感じで


「ちゃんとしてるだろ」


と言った。


それに対して林田が


「去年からこの調子だったよ。注目すればするほどちゃんとしてる」


とコメントを残した。


「ほかにも、ちゃんとしてる事あるの?」


林田は俺に目をやる。

どうだろう。


「聞かれると思いつかないな」


田中と林田は数秒、顔を見合わせると、林田が


「今日、笹本に密着していいか?」


と言った。


「ほかにも隠されている笹本のちゃんとを暴き出す」


などと言い出した。

林田の表情は巨悪を追うベテランジャーナリストのようだ。彼の骨にはそんな力がある。


「モードが違くないか?」


「それはオッケーと捉えていいんだな?どう思う、林田」


「異論ないです」


どんな解釈がこいつらの脳内で行われてんだよ。

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