林田ガイコツと決めごと その②

「これから委員会を始めます。皆さん、よろしくお願いします…………で君たちは?」


俺の隣にしれ~っと座っている田中と林田には担当の先生も触れないわけにはいかなかった。


「気にしないでください、俺たちは平気です。ただの笹本の同行者です」


林田は無駄にいい声で言った。さっきよりも骨にツヤがある気がする。というか、こっちが平気じゃないんだよ。


「やっちゃいましょうや!」


林田に続いて、田中がこの場にいる委員全員に発破をかけるように言った。

まだ、委員会がちゃんと始まってすらいないのに終わりそうな雰囲気だ。ってか田中ってそんなキャラだっけか? まるで何かの枷が外れたように元気だな今日は……。


「どうなってんのよ! 笹本 遊佐ゆうさ!!!」


このカオスにケリを着けたのは、体育委員長の根本 勇姫ゆうきだった。


「すみません、これには訳があって……」





「さ、仕切り直して始めましょ」


この空白の数行に何があったかを一言で説明するならば、根本 勇姫による二人の粛清だった。

ついさっきまで何かから解き放たれ、キャラに支障が出るほどにはっちゃけていた田中だったが、今の彼の顔には墨色の目のくまができて、ダンゴムシのように縮こまっている。

骨にツヤがあった林田も今は見る影もなく、ただのガラクタガイコツに成り下がってしまった。

まぁそれも無理はない。相手はあの、根本 勇姫なのだから。


「…………ウチのガヤがすみません………………ほんっとうに、すみません」







無事(というよりも有事だったが)委員会を終えた俺とその他二名は帰路についた。


「大丈夫か?二人とも」


「ダイ…ジョブ」


「だいじょうぶだよ……」


目に光はない。


「なら、俺こっちだから」


「あいよー」


「うい」


「じゃ、きーつけて」


俺がそう言った瞬間、田中の目がギラリと光ると


「ちゃんとしてる」


そう呟いた。


「え?」


どういう仕組みだ? なにがこいつの電源ボタンの代わりを担ったんだ?


「いや、ほら、きーつけてって」


「俺、言ってた?」


「言ってた。なぁ林田」


「しっかりと」


全然意識してなかった。というか、したことがない。なんでだろ……


あっ! そういえば昔……


「俺、昔なんかで見たことあったんだけど」 

「なにを?」


田中は顔をこっちに向けた。


「気を付けてって言うと、言われた方の人が無意識に気を付けるっていうの」


「なんだそれ」


「面白いね、それ」


田中と林田の反応は、対照的だった。

林田は続けた。


「それが無意識に刷り込まれてたんだろうね」


「なるほど」


「笹本のことだから、昔からちゃんとしてたんだろうな」


「ありそうありそう」


「笹本の無意識の中でのなんだろ、笹本の普段の‘ちゃんと具合’もそのの積み重ねなんだよ」


林田の言葉は、俺の頭の中を心地よくドリブルする。


「……ありがとう」


「ん?」


「へ?」


「その言葉、骨身にしみたよ」


すると田中が


「あ……」


と声を漏らし、林田のほうへと視線をやった。

林田は引くほど笑ってた。「腹がよじれる~」とか何とか言ってたな。ないだろ、お前には。

まぁ、良しとするか。




林田ガイコツは何処にでもいるガイコツであり、男子高校生である。

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