第8話 見送り

 どんなに眠れなくても夫の出勤を見送るようにしている。正確には見送りをさせられている。

 夫は自分の出勤の際、必ず私を起こす。明け方まで眠れず諦めてお弁当を先に作って仮眠をしていても、その事実をメモに書いて置いておいても絶対に起こす。

(少しは気を遣え)

と思いはするが

(もし夫が事故にあったり何かトラブルに巻き込まれたりしたらどうしよう)

という不安が勝る。

 それに出勤時の夫は急いでいるため少なくとも普段の3倍はイラついている。そんな夫に

「見送りは無理」

とは言いにくいのだ。

 加えて我が家の大黒柱様の出勤。2人暮らしで見送りなしは寂しかろう。

 というわけで今日もシャカシャカと玄関に向かう夫の後ろをノロノロとついて行くのである。

「いってらっしゃい、気をつけてね」

 無事を祈る気持ち、睡眠妨害への抗議、定時上がりへの希望。色んな気持ちを込めて言い、夫を見送る。ドアを閉める。

 夫のいない家は寂しさと自由に満ちている。広いベッドで眠りにつき1日が始まる。

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