第6話 ボディーガード

 時間軸は現代に戻り、麗華は己が耳を疑った。


「ちょっと待ってよ父さん、今なんて?」

「だから、これからは雅彦を護衛につける、だからできるだけ雅彦から離れるなと言ってるんだ、簡単だろ?」

「冗談じゃないわよ!」


 麗華が叫ぶ、


「いーい父さん、あたしはね、普通の高校生活したいの!

 財閥の令嬢なんて堅苦しくてやってらんないの!

 それは前に散々言ったでしょ!」


「ああそうだ、まあ跡継ぎはお前の兄達がいるし、お前は四女だし、末っ子だし、麗華がどうしてもって言うなら父親として出来る限りのお前の自由にさせてやるつもりだ」

「じゃあなんでよ!?」


 麗華も必死だった。

 せっかく執事やメイド達から逃げられたと思えば今度はクラスメイトが自分について回るのだ。


 そんな事になれば麗華の明るい学園生活は終わらない日食を迎える事になってしまう。


「だから一人暮らしを認めたし、学校のレベルも上の下まで落とした。


 お前の言うとおり執事もメイドもつけなかった」


「そうよ! その代わり暮らすのは神宮寺家のマンションで週に一度は必ず顔を見せて一日一回メールする事にしたんでしょ!」

「だがボディガードをつけないとは約束していないぞ」

「なっ!」


 そんな屁理屈をと麗華は握り拳を震わせる。

 それをほどくと父のデスクに近づき手をついた。


「あのねえ父さん、いくらなんでもそんな、子供みたいな事……」


「何を言っている。お前の一人の時間を守る為に、本来ならば同居させたいのに、別々の部屋を与えたんだ。

 だいいち部屋は別でお前の世話をするわけじゃない、ただお前がどこかへ出かける時にこっそりと後ろからついて行かせるだけだ」


「だからそれが嫌だって言ってんのよ!」


 止まらぬ娘の文句に和正は眉根を寄せる。


「困ったな、ただでさえお前は身が危ないのに護衛がゼロでは……お前に死なれた私は母さんとまやっさんに合わせる顔が無い」

「誰よまやっさんて!!」

「まやっさんは父さんと母さんのデートが上手くいくようデートの度にあらゆる変装で常に監視してサポートしてくれた人でババ抜きがすごく強い人だ」


「最後の情報どうでもいいし!

 てかなんであたしの命が危ないとかまたそんなビビらせて、父さん一体何が楽しいの!?」


 言われて、和正は一度雅彦を見てから、


「言ってなかったのか?」

「はい、説明する間もなくここへ連れてこられたので」


 返す雅彦を見て麗華は機嫌を損ねる。


「何よ何よ、二人だけで何わかってんのよ、ちゃんとあたしにも説明しなさいよ」

「悪かったな、俺がお前の護衛をしているのはただ権力争いから守るためじゃない、箱舟から守るためだ」

「箱舟?」


 麗華が首を傾げた。


「我々の敵対組織だ、麗華、何も雅彦達戦士は天空闘技場で闘うだけが仕事ではない」


 いつになくマジメな顔で語る父、和正に麗華は聞き入る。


「〈武〉という漢字の右上は〈ほこがまえ〉という部首でその左下に〈止める〉と書いて成り立っている。

 矛を止めると書いて武、それが武の本質だ。

 武とは本来、弱者が強者と戦うため、弱者を強者から守るため、そして矛を止め争いを無くし悪を討つために生まれ育った。

 最強になりたいというのは武の一部に過ぎないのだよ」


 普段の緩さが無く、神宮寺財閥の当主としての風格を持って話す和正に、麗華は低く唸る。


「むぅ~、カッコいい父さんてなんかムカツク」


「言われてしまったねぇ、まあそういうわけでね、私が持っている最強の戦士部隊、聖騎士団の目的は武の正しき姿を守る事にある。

 闘技場で戦いチャンピオンとなり、最強を目指す以外にも戦士の仕事はある。

 戦士の仕事は全部三つ」


 和正は右手の指を一本ずつ立てていく。


「一つは今言ったとおり、天空闘技場での戦闘行為。


 もう一つは法で裁けぬ悪の抹殺」


「法で裁けない? 悪い金持ちとかヤクザとかの事?」


「そうだ、法に縛られた警察では捜査に限界があるうえに金や権力の力には警察も勝てない。

かつて、かの有名なマフィア、アル・カポネは毎年多額の賄賂を警察に渡し、交番の前を堂々と歩いていたという。

 物的証拠が無いから裁けぬ悪、法の目をくぐり抜け裁けぬ悪、金や権力で裁けぬ悪、雅彦達戦士はそういった連中の暗殺も手がけている」


「なんですって!?」


 麗華は父のデスクを両手で叩く。


「父さん人殺しなんてしてんの!?」

「人ではない、抹殺すべき悪だ」

「それは……でも雅彦はまだ高校生になったばかりなのよ、なのにそんな人殺しさせるなんてどうかしてるわ!」


 聞いた雅彦は一歩進み出る。


「気にするな、俺は十三の時から暗殺の任務を受けている。今更気にしたってどうしようもないだろう?」

「でもぉ……だいいちこのご時世に戦士が暗殺なんてできんの?

 もう江戸時代じゃないんだから、暗殺って言ったらやっぱ毒殺とか狙撃でしょ?

 剣や槍振り回しているような連中がどうやって暗殺するのよ?」


 和正はニヤリと笑う。


「このご時世だからこそ戦士の力が最適なのだよ」

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