第31話 未来の家族からのメッセージ

 身に覚えがなさ過ぎるので迷惑メールかと思ったが、一応目を通す。


[パパ、お父様、父さんへ


 あなたがこのメールを読んでいる時点で私たちが生まれていないことは当然なのですが、ヒロイン攻略が成功しているかどうかは分かりません。攻略できていなくて、まだ攻略のチャンスが残っているのならこのメールを読んでください。攻略できていたら、おめでとうございます。このメールは読まずに破棄してください]


「死んだやつからのビデオメッセージみたいなのが届いたんだが? これどういう仕組み?」


 俺の疑問に対する答えも書かれていた。


[私たちは、あのゲームで運動、勉強、バイトを選んでいる間、特殊なイベントの時間を除いて、パパの身体を使ってこの世界を自由に動くことができました。このメールには私たちの名前を書けなかったので伏字を使い分けて人を区別しておきますが、主な分担は、運動では私――##、勉強では◎ちゃん、バイトでは××さんとなっていました]


 記号で伏せられているが、記憶の中ではバッチリ照合できていた。

 名前は思い出せないが、##が金髪陽キャギャル、◎が和装の小学生、××がパパ活大学生で間違いないだろう。


[この仕組みに気付いてから私たちはパパに内緒で情報収集と情報共有を進めました。具体的にはパパの机の中に入っているノートを用いて互いに記録を残しました。パパはどうせいつも使うノート以外は読み返さなさそうだし]


 あいつらが何かしているのは知っていたが、まさかそんな方法だったとは。てか、俺の身体使っていたとかマジ? と思いつつ机の引き出しを開けると、過去に使っていた教科書やノートが出てきた。捨てるのが面倒で適当に突っ込んでいたやつだ。

 ノートに絞って中身をチェックしていくと、明らかに筆跡の違うノートが出てきた。

 俺の個人情報やクラスの人々たちに関する分析のようなものが細々と書かれている。

 しれっと、俺のパソコンやスマホのロック解除の方法も共有されていて震えた。

 パソコンやスマホの中を見られたってマジ?

 でもほとんど変わらない態度で接してくれていたはずだからセーフだったのだろうか。それともポーカーフェイスが上手すぎるのか。分からん。

 詳細を確認する前にメールの続きに戻る。


[このメールはバレンタインの直前に予約送信したものです。直感的にバレンタインを超えると後がなさそうだと感じたので三人で分担しながら書きました]


 数行空白が続いて、


[まずはウチ、××から。

 バイトで何度か大岡部おおおかべの彼氏のフリをした経験から書いておくと、##が以前指摘したみたいに大岡部が他の男とも彼氏契約を結んでいるのは間違いないわ。

 ウチと一緒に撮ったツーショットの写真をどこかに送っているのを見たもの。雰囲気的に親じゃなさそうだったし、女子の友達ってわけでもなさそうだった。

 これだけでも結構ヤバい女子だと思うけど、そこで終わらないのがアイツの色んな意味で凄いところよ。

 アイツの周辺の人物に探りを入れて過去の恋愛話を聞いたけど、基本的に全て略奪愛だったの。アイツが父さんに隠していたのはコレよ。

 百子ももこちゃんが言っていた「他人の好きなものを好きになる」ってやつも遠回しにこのことを言っていたわけね。攻略するには、少なくとも一人は先に別のヒロインを攻略しないとダメでしょうね。


 関われば関わるほど自分の親じゃないんじゃないかと思うわね。

 そういえば以前、◎の帯と同じ柄のハンカチを使っているところを見たことあるし。アレ何なのかしら? 回答よろしく]


 彼氏のフリをする契約を数人と交わしている様子だったのは別に何とも思わなかったが、略奪愛が趣味って話はさすがに驚いた。

 攻略の順番が大事だということは薄々分かっていたが、まさかそんな背景があったとは……。

 頭を抱えながら次の段落に目を移す。

 先ほどの文末の疑問に対するアンサーから始まっていた。


[お母様に関する記憶のように少し弄られていたのか、完全に失念していました。◎の帯に使われている柄は六弥田格子と呼ばれるものです。

 お父様の名前の「ろく」に掛けているのかと思っていましたが、むしろ名前の由来である「岡部六弥田」の方に掛かっていたのかもしれません。

 つまり、誠に遺憾ながら、大岡部奈緒こそが◎の――わたしの母親なのでしょう。

 こんなギリギリまで気付けないとは一生の不覚です。

 とはいえ確定ではないですし、ここまで来たらこれまで通り吉川よしかわさんを応援したい気持ちもありますが]


 軽くグーグル検索すると、確かに似たような説明が出てきた。歌舞伎役者が「岡部六弥田」という人物の役をする時に使った服の柄が名前の由来になっているらしい。

 岡部から連想しての大岡部か。安直ではあるが、なくはない。


[さて、その吉川さんの情報を探ってみたのですが、◎ではあまり探りきれなかったので何かに気付いていた様子の##さんに託します。

 これだけでは情けないため、◎からは桃山ももやまさんに関する情報を。

 桃山さんは事あるごとにお父様を家に誘っていましたが、普通の女子高生はあまりそういうことをしないはずですよね?

 疑問に思って調べてみたところ、桃山さんは一人暮らしをしていることが分かりました。定期的に親が様子を見に来るようですが。少し遠い地域から高校入試で入ってきたからでしょう。

 本当に攻略に詰まった時は一番お手軽そうな桃山さんを攻めてみてはどうでしょうか]


 なるほど。そうきたか。

 大岡部先輩に関する情報に比べればインパクトは小さいが、攻略の手助けにはなりそうだ。

 さて、最後の娘からは……。


[後で紹介するアカウントを見てみて。吉川の裏垢だから。

 探すのは苦労したけど、このカードを使うかどうかはパパ次第ってことで。

 本当は、吉川の攻略が進み過ぎたら妨害のために出す予定だったんだけど]


 他の二人に比べると随分短い。

 例の裏垢を見る前に、先にメールの結びを読んでおく。


[結果はともかく、私たちのために頑張ってくれたのは嬉しかったかな。


 とはいえ、自堕落で獣のような生活は改めるべきだと◎は思います。

 その前に身だしなみとかを変えた方がモテるんじゃないかって話は……今更か。

 とにかく、ありがとう。かっこよかった。頑張ってね


 愛すべき娘たちより]


 これが、テレビの感動シーンみたいなやつでやたらと使われるイメージのある、家族からの手紙ってやつか。

 そんなので感動するわけねーよと長年思っていたが、今となっては少し沁みる。

 これで内容がこんなじゃなければ多分泣いてたね。

 ほんのり温かい気持ちで口元をほころばせながら例の裏垢のURLをタップ。

 スクロールさせて投稿内容を遡るうちに、菩薩のような表情が引っ込んでいくのが自分でもわかった。


「俺の感動を返せえええええええええぇぇぇぇっっ!」


 アカウント名は「えむこ」。吉川のフルネームは吉川美鈴だったから、美鈴のmから取っているのかもしれないが、この界隈だとSとかMとかから取っている可能性も十分ある。

 投稿内容は裏垢女子らしく、短めの文章と自撮り写真。

 マスクや画像加工などで身バレの可能性を減らしつつ、ちょっと過激な服装の写真を上げている。

 メガネをかけていないし、髪も三つ編みではないので正直これが本当に吉川と同一人物なのかどうか全く分からない。

 着瘦せするスタイルの良い体型を誇示するように色んな角度からの写真を毎日投稿していた。

 フォロワーはまあまあ多い。

 修学旅行の時に大人びた印象を受けた時もあったが、だからといってここまでする女子だとは思っていなかった。


 これマジで吉川のやつなのか?

 大体こういうのって何か詐欺とかに使うページに誘導するためにおっさんたちが作っているアカウントなイメージあるんだが。

 金髪ギャル娘が成果をでっち上げるために適当に拾ってきたアカウントなのではないかと疑いそうになったが、メールの文面的には使うタイミングがなくてお蔵入りになってしまった秘蔵の武器を出してきたという印象であり、無下にするわけにもいかない。

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