第9話 最愛


★ 最愛



二〇〇六年十月、

僕は三十一歳になった。


当時、ミクシィというSNS に

僕のページを作っていた。


僕は暇つぶしに

お店の宣伝やサロン日記を載せ始めた。

徹夜明けで疲れた思考で搭載していたので、内容はほとんど覚えてないが。


お店の内容と僕に

興味をもって来てくれたお客様も

徐々にではあるが来店してくれていた。



ある日、SNSにメッセージが届いた。



髪を切りたいのですが、

学生で節約したいので、

コスパと千尋さんに興味があります。

切りに伺ってもよろしいですか?

龍斗




千尋さんに興味が。。




そこにニヤついてしまう。(笑)


僕は営業トークのようなメールを返し、

何度か事務的なやりとりをして

予約を入れた。


龍斗との出逢いだ。


約束の予約日、時間になっても現れず、

落ち込み始めていた。


SNS上では龍斗は

自身の写真を一切投稿せずに、

好きなバンドやひとり旅をして撮った

素敵な景色の写真ばかりだった。


なんだか若さと希望で満ち溢れていて、

僕なんかとの共通点が全くないので

何を話していいのやら、

不安感だけ募る一方だった。


向こうは僕の顔をサイト上で知ってるが、

僕はわからなかった。


ただ大学三年目二十一歳、

僕と十も歳が離れているとしか

情報がなかった。


龍斗が来る予定の時間に

ドアが開いた。

そこに立って居たのは、


近所のおばちゃんだった・・




まさか、

大学生が僕なんかに興味ある訳ないよな。

冷やかしかな(笑)


SNSではよくある事と割り切って仕事に戻る。

一時間後、サロンのドアが開いた。




そこには僕が夢みていたような

学生が息を切らして肩を上下していた。




すいません、

補習入ってしまって電車も遅れてて

予約時間に間に合いませんでした。

ごめんなさい。


息を切らして一生懸命な姿に

思わず笑ったな。



龍斗くん?千尋です。

よろしくお願いします。(笑)



龍斗は安心したように微笑み、

僕に近付いてきた。


衝撃波。



懐かしい拓也のあの笑顔。

忘れかけていた拓也の笑顔が、

龍斗の瞳と重なった。


暖かい瞳、

歳下なのに拓也と同じような

暖かさで僕を見つめていた。


今まで僕が惚れた人の細胞を

全てコンプリートしていたような

青年だった。


僕の細胞はその瞬間に弾けた。

瞬間的に人を好きに

なるって事を経験した。

運命を信じた。



僕は人と出逢う時、

必ずその人との未来が

観えるかを考える。


拓也もナオトももちろん観えた。


ただ、龍斗は少し違った。


笑われてしまうかもしれないが、

なんとなく老後まで観えた。


楽しい事、辛い事、喧嘩もする、

幸せもある、不幸だって、

それを全て龍斗と感じ生きてくと。


歳の差はあるけど感じた。


キリがないくらいの

偶然と必然が龍斗ととはあった。

以心伝心を信じた。


話しが合わないかもという不安も

吹き飛ぶくらい

話したい事がいっぱいあった。


それからは音速の様に、

龍斗との生活が始まった。



都内でも高学歴の大学に通う龍斗は、

高卒専門学校卒の僕にない

知識をたくさん教えてくれた。


学生しかできない時間も僕に注ぎ、

龍斗と出逢わななければできなかった、

旅行や音楽フェスにもたくさん

連れ出してくれた。


今では音楽フェスのない人生なんて

考えられない程に。


大学のお休みの日には、

サロンのチラシ配りを

投函しに歩きまわってくれたり、

駅前でのチラシ配りもしてくれた。


僕の経済状況も把握して、

自分がバイトで稼いだ給料から

夕飯やお弁当を作って

くれたりもしてくれた。


本当は年上の特権を最大限に活かし、

お金のない大学生に

美味しいものご馳走したり、

素敵なプレゼントをあげたり

したかったけど、

なんせ僕は人生最大の

貧乏時代だったから、よく謝ってたっけ。


龍斗は何で謝るの?

千尋と一緒が一番幸せだって事に気付けよ!


って十も歳下に怒られてたな。


まず、龍斗は知り合ってすぐに

十も歳上に千尋!

て呼びつける勢いがあったしね(笑)




上に二人姉がいる龍斗は

小さい頃から念願の弟誕生で

とても愛されてた。


特に真ん中のお姉さんは龍斗と

結婚したいとまで言ってた。


お姉さん達から料理を教わり、

身につけた龍斗のご飯は美味かった。

真ん中のお姉さんは料理の先生。(笑)


この家族だからこの子が

育ったんだなと思える

素晴らしい家族だった。



十月の終わりにプロポーズをした。


今の社会では不可能かもしれないが、

僕らが爺さんになった時、

同じお墓に入ろう。


何十年先になるかは未知だけど、

同性婚が認められたら、

龍斗に婚姻届を渡すからね。



恥ずかしくて背中を向けて

言ってしまったが、

龍斗は後ろから優しく背中を

抱きしめてくれた。


それが龍斗の答えだった。

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