第8話 七月七日


★ 七月七日





その日は七夕だった。

文也がサロンを辞め、

僕が続くとそのあとの行動は

記憶にないくらい早かった。


高円寺の外れに文也は店舗を構え、

全ての内装やサロン営業に必要な備品は

自分達で揃えた。


かなり驚いたのが、

千尋くんには黙ってたけど、

と話した時、

改装中の店のドアが開いた。


そこに立っていたのは、ヨシキだった。


これからを思うと

お先真っ暗だ。

いや真っ白だ。


文也の店のオープン日は

文也とユキの交際記念日だった。


七夕の日から

文也、ヨシキ、僕で

夢に向かって歩み出した。

細胞の根底は三人とも女だ。


最初から躓いた。

前のお店で僕を指名してくれていた

お客様もあまり付いて来てはくれなかった。


いかにサロンのネーミングバリューが

大きかったか、僕自身の接客営業の

未熟さも痛感させられた。

文也もヨシキもまた同じだった。


それでも、その苦しさが楽しかったし

冒険だった。


七夕、

オープン初日に僕の最初のお客様は、

半年ぶりに笑顔を見せてくれた

ナオトだった。


バックルームで嬉しくて、

目頭を押さえた。



三カ月が経ち、

毎日が不安な日々が続いていた。

ヨシキの事も苦手だとか言ってられない

くらい毎日一緒に夢を語った。


側から見たら仲良しゲイカップルに

見えるくらい、カラオケや飲みに行ってた。


言うほど悪い奴じゃないじゃん

とも思っていた。


そろそろ二人とも貯金が尽き始めた頃、

ヨシキが文也に対しての不満が

絶えなくなってきた。


文也はユキを幸せにする考えしかなく、

僕らの考えはあまり

気にしてないようだった。



僕とヨシキは焦り始め、

高円寺でサロン営業終わりから

深夜早朝までバイトを始めた。


その頃になると正直、

僕の中にも文也に対する

不満が少しずつ芽生えてしまっていた。


ヨシキは駅前の料亭居酒屋。


僕は地元でも老舗のカフェバー。


三十路でもお洒落なカフェで

働いてみたいという

夢を追い、面接を応募しまくってたが、

やはり副業の三十路は

どこも雇ってもらえず、

一か八かで一番の本命の

カフェバーに最後の綱で電話をしてみた。


四十代のオーナーは

経営をしながら大学に行こうと

頑張っている受験生だった。


二足の草鞋のオーナーが

いたく僕を気に入ってくれて

見事に採用が決まった。


ただ夜九時から

早朝までのバイトだったので、きつかった。

この時の経験は今でも僕の宝だ。


だが毎日が本気で

眠かった。

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