9.変わるという、約束。







 ――連休が終わった。


 ミュラー家で過ごした時間。

 そして、知紘に指摘されたことは脳裏に焼き付いていた。

 きっとこの問題は、ボクが今後の高校生活を過ごすうえで考えなければならない。



「あれ、これって……?」



 そう考えながら、いつもの三人で登校した時のことだった。

 ボクの下駄箱には可愛らしい便箋が一枚。風になびいて落ちたそれを拾い上げ、目を通すとそこに書かれていたのは――。



「杉本拓海くんへ、放課後に校舎裏で待っています――か」

「おやー? 相変わらず、モテモテですなぁ!」

「いや、別にそういうことでは……」



 いわゆる、ラブレターというもの。

 これで今月は四回目。



「むぅ……人気だね、杉本くん」

「おいおい、エヴィまで。そんなことないって」



 ――またか、と呆れていると。

 少し遅れてきた彼女も、どういう状況を察したらしい。

 若干だが不機嫌になって頬を膨らせ、周囲に聞こえない大きさの声で文句を言ってきた。ボクは苦笑いしつつ頬を掻く。

 だが、この申し出についての返答は最初から決まっていた。



「とりあえず、ちゃんと断ってくるよ」

「え……?」



 それをエヴィに伝えると、彼女はポカンとした表情で首を傾げる。

 ボクは、そんな少女に詰まりながらも伝えるのだった。



「ボク、少しずつでも変われるよう頑張るから。だから、安心して」――と。



 そこに込めたのは、過去の自分と向き合う気持ち。

 傍からすれば意味の分からない内容だ。でも、ボクたち三人にとっては、特別な意味を持つ言葉だった。エヴィもすぐに、その意図を察したのだろう。

 ハッとした表情になり、少しだけ泣きそうになって。

 それでも、笑顔を浮かべて答えるのだ。



「うん……! 私も、頑張るよ!」――と。



 それを聞いて、ボクも安堵した。

 お互いに少しずつでもいい、変わっていこう。




 そして、いつかきっと――。











「まったく、手のかかる子たちですなぁ……?」




 下駄箱の前で、何故か感情的になっている二人。

 知紘は、少し離れた位置からそれ見て、小さく笑った。

 自分にも後悔や、哀しみはある。この三人でかかわりあうようになって、自分はそういった気持ちになってばかりだった。

 それでも、彼らを恨めないのは綺麗だから。

 あまりにも純粋で、それでいて少し捻くれていて、とかく愛おしい。



「あー、やだやだ。花のJKなのに、おばさんみたいじゃん」



 だが、そこまで考えて。

 知紘もまた、前を向こうと気持ちを改めた。――その時だ。



「ん……?」



 まだ人気のない生徒玄関。

 そんな場所で、物陰からの視線を感じたのは。



「………………なるほど、ね」



 その正体には、察しがついていた。

 きっと、斉藤たちだ。彼らは拓海のことを目の敵にしている。

 本当につまらない奴らだと、知紘はゲンナリとしていた。しかし、頭数が揃えば厄介なのは間違いない。



「今日の放課後は、少し荒れそうだね……」






 知紘はそう呟いて、まだ向かい合ったままの友人たちに声をかけに行く。

 そして、彼女の予想通りに事件は起こるのだった。





 



――――

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