その後の話4の2 余談:『デレーチョ』という嵐

 日本人はまず聞いたことがないであろう『デレーチョ』という嵐は、この辺りの人たちも経験したことがないような記録的な嵐だった。

 余談にはなるが、ここで今回のホテル休業の原因である停電をひきおこしたデレーチョについても書いておこう。


 

 その日は気温が30℃近くまで上がった5月にしては暑い日で、夕方6時半ごろに竜巻が発生するかもしれないという警報が出ていた。それにもかかわらず私は、実際に竜巻が来ることはほとんどないから6時ごろまでに帰ったら大丈夫だろうと、5時過ぎに車で出かけた。

 そしてのちに私はその甘い判断を死ぬほど後悔することになる。


 今回の嵐は百年に一度あるかないかと言われた『デレーチョ』とよばれる大規模な直進性の嵐だった。


 風速160kmを超える竜巻かと思われるほどの猛烈な雨混じりの風嵐がサウスダコタ東部を南から北へ走り抜けた。

 その移動スピードは時速約100kmで、高速道路を走る車よりも早い。

 移動速度が予報よりもかなり早かったため、うちの街には5時半過ぎには到達。警報が鳴った時には街はすでに黒雲に飲み込まれ始めていた。

(近況ノートに写真を載せてあります。)

 https://kakuyomu.jp/users/numayu/news/16817330647579718041

 

 その時私は、家から車でほんの6、7分の街の北側にいた。周りに身を隠せそうな場所は全くない。

 警報が鳴ってから急いで車に飛び乗って帰ろうとした私は少し走ると、進行方向からものすごい勢いで襲ってくる嵐に飲み込まれた。嵐の中は夜のように真っ暗で、泥水のような雨が横殴りに吹き荒れている。慌てて車のライトをつけたが視界がきかない。道路にはすでに街路樹が何本も倒れて行く手をふさいでいるし、何が飛んできてどうなるのかわからないような状態に命の危険を感じた。


 吹き荒れる嵐の中で私は家に帰ることをあきらめ、その近くに友人の家があることを思い出し避難させてもらおうと思った。必死で友人の家にたどり着くも、友人は留守。これ以上移動もできないし、遮るもののないところでは何が飛んでくるのかわからない。それで、その隣に開いているガレージを見つけた私は、そこに勝手に避難をさせてもらった。


 ガレージの外を荒れ狂う雨風が様々なものを吹き飛ばしていく。

 ガレージの隅で縮こまりながら、ひたすら早く嵐が過ぎ去ることを祈った。


 そしていつもよりゆっくり進んでるかのように思えた時計が30分を過ぎた頃。

 真っ暗だった空も少しずつ明るさを取り戻しはじめ風雨も多少弱くなってきたので、ガレージからそろそろと抜け出し車で家に帰ることにした。


 走り出して驚いた。街の様子が一変していたのだ。道路にちぎれとんだ木の枝やらなにやらが散乱している。真ん中から裂けて折れ曲がっている木、根元から倒れて道路をふさいでいる街路樹。倒れた木が家の屋根にめり込んだりして惨憺たる有様だった。

 我が家の前も大きな木が倒れて道路をふさいでいたが、幸い我が家は大きな被害もなく皆無事でほっとしたことだった。


 後で、嵐の中を走っていた車に倒れた木が直撃して亡くなった人がいたことを聞いて、ぞっとした。それが私に起こったとしてもなんの不思議もなかったのだ。

 私は守られたことを神様に感謝した。


 ちなみに、竜巻警報が鳴った時の避難の仕方はご存じだろうか?

1、頑丈な建物に避難する。もし地下室があれば、地下室がベスト。

2、雨戸やカーテンを閉め、窓から離れ(飛んできたものでガラスが割れたりして危険なため)、窓のないできるだけ柱の多い場所トイレやクローゼットなどに避難する。


 自然災害、警報や予報を侮ってはならないと心に刻まれた出来事となった。

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