第5話:新たな仲間

 高校生になって一ヶ月ほど経った頃、海から彼女が出来たと報告を受けた。相手はバイト先で知り合った三つ年上の女子大生。


「えっ。大学生?」


「そう」


「いいなぁー」


別に羨ましくはなかった。私には月子がいたから。けど、嫉妬する月子が見たくてわざとそう言うと、月子は私の思惑にまんまと引っかかって拗ねるように唇を尖らせた。


「……帆波には私が居るじゃん」


「うふふ。冗談よ。私は月子一筋よ〜」


「……いちゃいちゃしやがって」


「海の前くらいでしか出来ないんだもーん」


そうでもない。学校でも割とこうだ。だけど、誰も私達が付き合ってるなんて思わない。私は相変わらず男に媚びていると言われているし、月子と海は相変わらず女扱いされない。黒王子と白王子。高校に入っても二人のあだ名は変わらなかった。


「……たまにさ、無性に死にたくなるよね」


ふと、月子が呟いた。その時私は思った。それも悪くないと。思えば、この時すでに私は病んでいたのだと思う。


「……じゃあ月子、一緒に死ぬ?」


 私がそう言ったその瞬間、時が止まった。


「や、やめてよそういう冗談……頑張って生きよう。一緒に」


「……そうね。一緒に生きようね」


 世界は変わらない。同性婚の法案はどんどん後回しにされて、まともに議論すらされない。月子との未来が見えない。だけど、この時はまだ希望があった。


 その年の秋、海が同性愛者なのではないかという噂が流れ始めた。


「そうだけど、何か?」


 彼女は噂を素直に認めた。中学の一件があったけれど、私も勇気を出してカミングアウトすることにした。


「月子。もう、良いよね?」


月子は私の言葉に頷いてくれた。

意外にも、中学の時ほど酷い結果にはならなかった。むしろ、良いことが起きた。


「あの、私も……レズビアンかもしれない」


 クラスメイトの女の子の一人がそう告白してくれた。彼女の名前は佐倉さくら美夜みや。彼女とは、野外学習で同じ班になったことがきっかけで仲良くなった。気が強そうで近寄りがたい印象だったが、話してみると案外気さくな子だった。人見知りな上に目つきが悪くて誤解されやすいらしい。

彼女は、海が恋人が居る話をしたら露骨にショックを受けていた。分かりやすいなと思いながらも、誰も指摘はしなかった。海も多分、気づいていたと思う。けれど彼女は、この頃はまだ一途だった。この頃の海ならきっと、私の計画を止めていただろう。

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