第4話:海のカミングアウト
月子との交際がスタートして数ヶ月後の冬のこと。海が鈴木くんの家から登校していると噂が流れた。誰かの気持ち悪い妄想だと思った。けど、妄想ではなく、事実だと海が認めた。家出をして居候させてもらっているらしい。自分に恋愛感情を抱いている男の家によく転がりこめるなと思ったが、今考えると、それだけ彼のことを信頼しているのだろう。
海が鈴木くんの家に居候していることを認めると、同じ部屋で寝てるのかとか、一緒に風呂に入ってるのかとか、ヤッたのかとか、そんな質問が海と鈴木くんに容赦なくぶつけられた。鈴木くんは困りながら否定していたが、誰も彼らを信じようとしなかった。私の異性愛者に対する嫌悪感はどんどんと膨らんでいった。恋愛物のフィクションさえ受け付けなくなるほどに。
やがて、ついに耐えきれなくなったのか、海は自身が男性に対して恋愛感情を抱かないことをカミングアウトした。
「だから、こいつとは何にもねぇよ。キモい想像すんな。死ね。カス」
これで事態が収まるかと思ったが、そんなことはなく、むしろ悪化した。彼らは犯人探しをするように海の恋人を詮索し始めたのだ。矛先は彼女と仲が良かった女子達に向かい、彼女の周りからは少しずつ人が消えていき、海と付き合っていた佐藤さんは少しずつ、学校に来なくなった。
中三の四月。彼女はもう学校に在籍していなかった。何も言わずに転校してしまった。泣きながら自分を責める海を、私と帆波、そして鈴木くんの三人で慰めた。この時の鈴木からは下心は感じなかった。私にはそれが少し不気味に思えた。彼を良い人だと認めたくても、海に恋心を抱く男子というだけで、私の脳が彼を拒絶していた。
高校は、海と同じ学校に進学した。誰も同級生がいない学校に進学したくて選んだらたまたま被った。月子も同じ学校を選んだ。
鈴木くんは別の学校に進学した。彼と離れられたことに私はホッとしていた。
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