【3話 落とし物】

 住宅街の道を一人の女性が低空飛行をしていた。百五十五センチメートル程の身長で、十代後半の容姿をしている。また、少し丸みを帯びている目が可愛らしい雰囲気フインキを出していて、派手な金色の前髪は眉まで垂らし、背中上部まで後ろ髪が伸びていた。それから、青い服装を身にまとっていて、腹部や腕といった箇所など、肌が露出している造形デザインだ。そして、胸部にはわずかかに大きい膨らみが対で出来上がっている。


 ニイナはサラの姿にトランスフォームしていた。そして、足に銀色に輝く金属の外装のフライングシューズを履いている。


 両手を横に広げて秒速二メートルの速度で道を進んでいくニイナ。


 一方、幼稚園か保育園児に見える女の子が道路で顔をしかめていた。百センチメートル程の身長をしていて、黄色い服を着ており、大きな太陽が前面に描かれている。更に、目から水滴を垂らしながら、地面を眺めていた。


 そして、ニイナは泣いている子供の横を通っていく。


(うん? あの子、泣いてたな。……頑張れ! 泣いた分だけ成長する!)


 だけど、後ろを振り返って子供の様子をうかがうニイナ。


(親は近くに居ないのかな?)


 ニイナは首をかしげて、周囲を見渡す。


(まぁ、なんとかなるでしょう! 頑張れ、少女よ!)


 数メートル移動した後、もう一度振り返るニイナ。


(ボクは家の食糧危機を解決しなければならない! 子供に惑わされてはいけない!)


 ニイナは頬を叩きながら移動していく。


(うーん、でも、気になるなぁ。放っておけないなぁ、うぅ)


 両腕を正面に突き出すニイナ。すると、移動速度が急激に落ちていき、そのまま腕を前に出し続けていると足が地面に着地していく。 


 続けて、ニイナは体を反転させて、通ってきた道を戻る。それから、軽く手をあげながら女の子の横に移動した。


「お嬢ちゃん、こんにちはー」


 女の子はニイナを睨みながら見上げる。


「お嬢ちゃんじゃないもん」


「えっ!? じゃあ、まさか坊ちゃん?」


「坊ちゃんじゃないもん」


 ニイナは硬い笑みを浮かべながらその場にしゃがみこんだ。


「うーん、じゃあなんて呼んだらいいのかな? ボク困っちゃうよー」


「知らない人に教えちゃダメなんだよ」


(おっ、結構真面目な女の子だねぇ)


 微笑みながら何度もうなずくニイナ。


「そっかそっか、そうだよねぇ、ボクと初めて会ったんだもんね。じゃあ、勝手にクライガールって呼ばせてもらうね?」


「そんなヘンな名前じゃないもん!」


 ニイナは硬い笑いを浮かべる。


「それがイヤなら、ボクは何て呼んであげたらいいのかな?」


「お姉ちゃん」


 親指を立てるニイナ。


「了解! それじゃ、お姉ちゃんに聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」


「知らない人に教えちゃダメ――」


「うんうん、教えちゃダメなんだよねー。でも、ボクはお姉ちゃんが何で泣いているのか気になるんだー、良かったらボクにその理由教えてくれないかな?」


「知らない人に教えたらダ――」


「教えてくれたら、ボクがお姉ちゃんのこと助けてあげられるかもしれないんだよー。教えてみない?」


 女の子は周囲を見渡した後、ニイナの顔を見つめる。


「落としちゃったの」


「うん? カッコいい男の子をとりこにしちゃったの?」


「落としたの!」


「うんうん、お姉ちゃん可愛いから、モテモテだろうねー」


「お守りが無くなっちゃった」


 ニイナは首をかしげた。


「それって、落としちゃったって事?」


「どこかに行っちゃった」


「うーん、そっかぁ、どこかに行っちゃったかぁ。それじゃあ、お守りさんが迷子になってるはずだから、探しに行かないとだね」


「見つからないの」


「そっかそっか、じゃあ、ボクも一緒に探すから、もうちょっと頑張ってみよ?」


 眉尻を下げながらうなずく女の子。


「うん」


「それで、お守りの特徴ってどんなのか教えてくれるかな?」


「赤いやつ」


「うんうん、赤くて丸くて、カッコいい形をしてるんだね」


「そんなのじゃないもん」


「だよね。じゃあ、他にどんな特徴があるかな? 形はどんなの?」


「普通のやつ」


 ニイナは腕を組みながら首をかしげる。


「普通のやつってことはー、四角いのかな?」


「うん」


「了解、赤くて四角いお守りを探せばいいんだね!」


「お守り見つけられるかな?」


 女の子に向けて親指を立てるニイナ。


「お守りもお姉ちゃんに会いたがってるから、すぐ見つかるはず!」


 女の子は首をかしげる。


「なんでそんなこと分かるの?」


「そのお守りは、お姉ちゃんにとって大切なんでしょ?」


「うん」


「それなら、お姉ちゃんとお守りとの間に信頼関係が生まれてるはずだよ。だから、会いたいに決まってるじゃない!」


「そうかなぁ?」


「うんうん、絶対そうだって!」


 ニイナと女の子は、地面に向かって喋りながら道路をゆっくりと歩いていく。

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