【2話 おにぎり】

 ニイナは椅子に座りながら右手のおにぎりを口に近づけていく。


(今日のイサラのおにぎりどんな味かなー)


 続けて、口を大きく開けたら、中に押し込んでいった。


(うん? この味なんだろう? 想像してたのと違う)


 口を小さく動かしながら呟く。


「あれ、このおにぎりの具材ってなに入ってるの?」 


 イサラは右手の欠けたおにぎりの中をニイナに見せる。


「何が入っていると思いますか?」


「えっ、問題クイズ!?」


「ニイナが毎日よく食べている物ですよ」


 眉尻を下げながら首をかしげるニイナ。


「えーっと、毎日食べてる物? サラちゃんの愛?」


「正解です」


 ニイナは右手のおにぎりを守りながら椅子と一緒に床に倒れる。


「嬉しいけど、そんなの具材にしないでよ! 嬉しいけどさ!」


下段げだんです」


冗談じょうだんだよね、うんうん。それで、本当は?」


 イサラは真顔でニイナを見つめる。


「ニンジンです」


「うーん、そっかぁ、ニンジンかぁ。でも、おにぎりの具材としてはイマイチじゃない?」


「はい。なので、味付けを濃くしてみました。米と合っていませんか?」


 右手の欠けたおにぎりを口に運んでいくイサラ。


「ワタシは美味しいと判断しているのですが」


「美味しくないってわけじゃないけど、もっと他にも入れる具材あるでしょう? サラちゃんも言ってたように、梅干しとか明太子とか、お肉でもいいしさ」


「ワタシもそうしたかったのですが、今日は無理でした」


 ニイナは小首をかしげる。


「“今日は”って、なんで? なにかあったの?」


「とても深刻な問題が起きていたのです」


 イサラの顔を真剣な眼差しで見つめるニイナ。


「深刻な問題って、冷蔵庫が故障したとか? えっ、イサラが故障しちゃったとか?」


 イサラはゆっくり首を横に振る。


「食材が冷蔵庫にあまりなかったのです」


 右手のおにぎりを守りながら机の上に突っ伏すニイナ。


「あー、はいはい。ボクが買ってくるよ」


「いえ、ワタシが買い物に行ってきますよ」


「問題です。なぜボクが買い物行きたいか当ててくださーい」


 イサラはゆっくりと目を閉じて黙り込む。


「分かりました」


「うんうん」


「なぜ、ニイナが買い物に行きたがっているか。それは、変なおにぎりを作ってしまったワタシの事が嫌いになってしまい、離れたい気分だからです」


 顔をおにぎりと一緒に両手で覆うイサラ。


 ニイナは首を高速で横に振る。


「いやいや、ちょっとお外行きたかっただけだから! そんな深刻な問題じゃないからさ!」


「本当ですか?」


「ていうか、ニンジンであそこまでのクオリティのおにぎり作るイサラは、むしろ尊敬というか、好きになっちゃうよ」


 両手を顔から離して真顔でニイナを見つめるイサラ。


「安心しました」


「もっと安心できるように、いっぱい食材買ってくるね」


 ニイナは笑顔を作りながら親指を立てた。

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