第6話 これがお前らのやり方かー!

 人が倒れていました。


 テントの外を覗くと、すぐ側に騎士さんが倒れていました。

 そこら辺に落ちてる木の枝でつんつんしたら呻き声が聞こえたので多分生きてます、てか生きているね!

 え、どうしよう……このまま放っておくのは人としてありえないよね?本当は放っておきたいけど。

 極力面倒事は避けていきたい所存です。


 ……――とりあえず、起こそう。


 そう決めて早5分、揺さぶっても声掛けても起きません!!

 えー、もー、いいかなー?一応声かけたし、世話したから面目はたったのでは?

 起こしてるのに起きないのはこの人のせいであって私のせいでは無いよね?うん、よし。放っておいてよし!!!


「う、うぅん……」


 再びテントに戻ろうとした時。

 唸りつつ起き上がった騎士様。

 嘘でしょ、こっちが見捨てた途端に起きるとか本能ですか?それとも危機回避能力の持ち主ですか?……案外ありそうだな、それ。なんかスキルとかあったもんね、この世界。

 あ、女神様になんで私のスキル空っぽなのか聞くの忘れてた!!

 って、現実逃避良くない。癖になってる。危ない、危ない。


 目の前の騎士様は、震えながらほふく前進のような格好のまま、上半身だけ起こすと……


「腹が、減った……」


 と、呟いてまたずべしゃっと倒れました。


 ………………えーーーーーー!!!??


 そんなことある!?こんな綺麗に漫画みたいにお腹すいたオチある!?マジで気を失ってるし!

 いや、本当に空腹なのかも?

 ん?まさかこれ低血糖なのでは!?

 また倒れられたら動かそうにもテントに入れられないし介抱しずらいのだが!?


 仕方ないので、一旦テントに戻って、お湯でもどしてたアルファ米の袋の中にやきとり缶をドバっと入れて付属のスプーンぶっ刺して、ちょっと温くなってるお湯で味噌汁もつくる。

 ……緊急事態ですので、うん。再沸騰なんて待ってられない!それにお水勿体無いじゃん?致し方なし!


 そりゃ、私だってお腹すいたし食べたいけどさっき味噌汁飲んだから少しは遅れても平気だし?

 目の前に倒れてる人が優先なのは人として……本当に人として最低限にしなければならない救命だと思う。それにまだ食料あるし。なんか食べても減らないらしいから本当、旅使用にしてくれたよね、女神さま。


 この世界の常識はまだ分からないし、怖いけど、ここは王宮。そして相手は騎士様。

 なんの義理もないですが、日本人として!吟じは!果たすべき!!


 ぶっ刺しておいたスプーンでアルファ米のやきとり缶丼もどきをすくう。それを騎士様の口元にやれば、自動的に口が開いたのですかさずインサート。小鳥か?小鳥なのか?

 ほら、小鳥も親鳥が餌持ってくると自動的に口開けるじゃん?あんな感じなんだけども。

 人間も寝ていようが、食べ物が口に入ると咀嚼して食べるんですね。

 ……これ、毒とか盛られてたりしたらこの人死にそうだな。

 なんて思いつつモグモグしてる騎士様をみつめる。


 よく見たら銀に近い金髪に、伏せていても長い睫毛、すっと通った鼻筋に、整った顔立ち。

 ……うん、これ絶対イケメンだな。


 などと邪に考えていたら、カッと見開いた瞳。

 ――起きたらしい。

 顔を見ていたので必然的に合わさる視線、目と目……あれ、この緑色の瞳……どこかで……


「うまい!!私は今、とても美味なるものを口にした気がする!」


 ガバッと起き上がった騎士様は、そう叫ぶと座ったままぽかーんと見てる私に気付いたのか、ぱあっと花が咲いたような、嬉しそうに笑顔になると、よくある騎士ポーズ……跪いて、スプーンを持ったままの私の両手を握り締めた。


「こんな場所に居たのですか!?異世界から来た人よ!!やっと見つけました!私はずっと貴女を探していたのです!!」

「は、はあ……」


 とんでも展開キタコレ。

 騎士様、泥だらけなのにめっちゃキラキラ輝かしいばかりの笑顔振りまいてるし。汚ねえのにイケメンだし。

 ちょっとときめくからとりあえず手を離して欲しいんだが。


「まあ、なんです?とりあえず食べてからお話しましょうか?テントの中で」

「え!?……うわっ!?な、これは、何ですか!?」

「へ?ただのテントですが……」


 この世界、魔物を討伐とか言ってたし野営テントくらいあるのでは?


「いえ、いきなり目の前に現れたものですから……すみません、お邪魔致します」


 ……認識型のステルス性テントでしたか。そりゃ探されたってわからんだろうなあ。

 女神様仕様なので仕方ないですね。

 持ち主が許容しないと見えない仕様っぽいし、色んなギアまだ検証してないから能力とかどんなチートつけられたとかまだ分かんないんだよね。追々検証していかねば。なんか無駄に性能よく作ってくれてるっぽいから感謝しないとダメだね。

 お礼とかしたいけど、それはまた今度話してみよう。


 女人と二人きりでテントなど、とか言ってテント入口あたりに座る騎士様だったけど、めんどくさいしそこはあっちに話があるようだから無理矢理中に入れた。

 その方が都合がいいし、見つかりたくないんだもん。

 ソロテントだけど、2,3人用のテントなので大きなガタイの騎士様が入ったところで窮屈さはない。


 ……はずだったんだけど、ちょっとまって?

 なんか外見と中見の空間が折り合ってないね?

 絶対8人用でしょ!?ってくらいの空間になってるよね!!

 入る人数で広さも変わるのか……凄まじき女神パワー。なんでもござれじゃん。

 

 行儀よく座る騎士様の前に簡易テーブルを移動させて、さっきの簡易やきとり缶丼と味噌汁をセット。

 

「こ、これは?」

「簡単なものですけど、食べてください。また倒れられてもこまりますし、まずはお互い腹ごしらえしましょう」


 そう言って先に食べさせようとしたけど、騎士様は手をつけず私を待っている。

 ……律儀だ。

 まるで待てをしている犬である。


 女神様の恩恵で減らない食料。ささっと同じものを作って騎士様と対峙するように座り直し、手を合わせる。


「いただきます」

「??……い、いただき、ます」


 私の行動を真似て、同じく手を合わせる騎士様。

 そんな習慣無かろうに、不思議そうな顔して真似っ子するのめっちゃ可愛い。

 マッチョなゴールデンレトリバーって感じ。

 クスクス笑い始めた私に、更に困惑した騎士様が小首を傾げる。それすらも様になってて、可愛いやらかっこいいやら、大変だ色んな何やらが大渋滞を起こしております。

 コホン、と咳払いをして誤魔化してみる。


 私が食べ始めると、ぎこちなく騎士様も一口咀嚼。ごくんっと、飲み込むと目を見開き堰を切ったようにガツガツ食べ始めたのでよほどお腹が空いてたらしい。味もこちらの世界の人にとって大丈夫そうでちょっと安心。

 しかしまあ、ガツガツ食べてる割には品がいいというか、綺麗に食べるな、この人。

 私が関心して見つめていると、食べ終わった騎士様、ちょっと照れてます。

 あ、がっついたのが恥ずかしかったのかな?

 いや、普通にガン見したのが悪かったかな、なんか女人となんちゃらとか言ってたしこっちの世界そういうの固そうだもんね。

 そっと視線を外して、自分も食べることに集中。

 すると騎士様、味噌汁を一口飲むとやきとり缶丼とは一段も二段も何段も違う反応をみせた。

 震えながら両手でカップを包み込み、天に掲げだした。

 供物か。


「わ、私は!このような美味なるものは!初めて食べました!」

「それさっきも聞いたなあ……」

「先程よりも、更なる衝撃です!満たされる!私が満たされている!」

「はあ……そりゃよござんした」

「満たされることの無い私が!たった一口で!こ、これは神の飲み物なのですか!?」

「ただの味噌汁です」


 しかもインスタントですし、申し訳ないですけどちょっと温いお湯で溶きました。

 大袈裟な反応に、何となく罪悪感がありつつも、大事そうに味噌汁を飲む騎士様。

 そんなに味噌汁、美味しかったのかな?

 まあ、ね。味噌汁は日本人の心のふるさと、おふくろさんよ……的な、そんな故郷を思い出させる、哀愁の料理ですからね。

 プロポーズにも使われるし、お母さんの料理と言えばランキング不動の1位ですから。


 しかも発酵食品であるお味噌は身体にもいいですし、塩分などは疲れた体を癒しますので……って、それかな?倒れてた分、よけいに沁みるってやつか。

 味噌汁何となく出したけど、考えてみたらここ異世界だし、味覚とか違う事あるって可能性忘れてたな。

 でも、騎士様の反応見る限り大丈夫そうだし、異世界人の方のお口にも合うのだなあ。素晴らしきポテンシャルです、お味噌。


「味噌汁……これは味噌汁という飲み物なのですね!」

「んー?正確に言うとスープ的なものなのだけど……」

「スープ!?これがですか!?」

「和風スープ……かな?海藻入りの」

「カイソー?……私はこのような具もたっぷり入った素晴らしいスープは飲んだことありません。スープといえば塩辛い透明なもの、です」

「ほー?こちらのスープは質素倹約なのかな?」


 食べたことないから知らんけど。

 そういえばこちらの世界のものって食べた事無いし飲んでないや。

 施しなど受けるか!状態だったしなあ。

 ここから出たらグルメツアーとかいいかも!


 ……いや、まて?よく考えるのよ、わたし。

 大体こう言う異世界転生ものって食べ物美味しくないパターン多くなかったっけ?

 食文化が進んでないから食物チートとかよくあるじゃん!

 ……そうなったら死活問題だぞ。

 そしてこういうこと思いつくってことはフラグが発生したかもしれない……。


 私は未だ神々しいものを見るように大事そうに味噌汁を飲んでいる騎士様を見た。


 ――……確かめておくか。


「あの……騎士様は普段どのようなものをお召し上がりで……?」

「騎士ですか?そうですね、宿舎の食堂で食べてますよ」

「あ、そうじゃなくて……えと、その……」

「はっ!!もしかして、お腹が空いているのですか!?」

「へ!?」


 何故そうなった?

 てかアンタと同じもの今食べたばかりなのですが!?

 そりゃ満腹とは行かないまでも空腹ではなくなった。

 目の前の騎士様は何故か納得!とばかりに笑顔になると、残りの味噌汁を飲み干し私にのたまった。


「そうと決まれば宿舎にご案内致しましょう!それに倒れている所を助けて頂いたお礼もしたいので!」

「え、いやっ、気にしないで……――」

「さあ!行きましょう!!」

「ちょ、待ってその前に話は……――ぎゃあああ!!」


 騎士様はそう言うやいなや私の手を取りテントを飛び出すと……担いだ。それは米俵を担ぐようにひょいっと。

 私を担ぎやがった。おい、淑女と何某やらはどこいったんだよ!!


 そこは騎士なんだからかっこよくお姫様抱っこなのでは!!?


「未婚の女性を抱くのは騎士として罰せられますので、申し訳ないですがこのようにさせていただきますね!」


 荷物扱い!!

 荷物扱いしてきたよ、騎士様!!!

 言うてくれたら自分で歩くなり走るなりできるんですけど!?


 というかこの世界の人、全然こっちの話とか聞いてくれない!自分の感情にごーいんぐまいうぇい!な人ばっかじゃない!?

 ちょっと待って欲しいと私は騎士様の背中をバシバシ叩くも筋肉質な騎士様には届かず、ならばと、名前を呼ぼうと思ったけど私、まだ名前も聞いてない!!

 私を探していた理由とか、なんで倒れていたのかとか、まだ何にも初歩的な事かわしてないからね!?

 異世界人、何でもかんでも事を急過ぎるんだよ!!


「こ、これがお前らのやり方かーーーー!」


 あれよあれよと言うままに、走り出した騎士様に抵抗も出来ず、私はただ叫ぶしかなかった。







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