第7話 イケメン怖い

 連れてこられて今、ここは騎士団の宿舎の食堂です。

 石畳の床に木製で出来た机にベンチという組み合わせがいかにも文明がまだ発達しておりません、的な感じを漂わせております。

 食堂はそれなりの広さで、例えるなら教室二つ分って所か。だけどここが騎士団の食堂と考えるなら狭くもなく広くもないのだろうか。

 全員で押し掛けたらすぐにでも埋まりそう。何人いるか知らんけど。


 そして私と騎士様は対峙する形で座っております。

 しょんぼりしている騎士様に、腕組みして怒る私、という図が出来上がっており、ほかの騎士が何事だとわたしたちを中心に囲むようにして遠巻きに見ているのが今の現状です。


「え、と……異世界人さま……あの……」

「なんでしょう、騎士様……ではなく、周りの反応から察するに多分騎士団長っぽい人」

「何故怒ってらっしゃる……?」

「そういう事聞く前にまずは名乗らんかい!」

「ひえっ」


 ばんっと、机を軽く叩くと、騎士様……もとい、団長さんは体を跳ねさせて慄く。大きな身体を小さくさせてチラチラとこちらの機嫌を伺っている。そんなに怒り心頭してないのですが、異様に恐れられているのは何故?

 埒が明かないので、ため息ひとつついて切り替える。


「私は山野ケイですが、貴方は?」

「私はアース・ウルファング。ウルファング家の三男でありこの討伐騎士団の団長をしております……」

「ふむ、その騎士団長様が私に何の用だったんですか?」

「それは……」


 やっと名前が分かった騎士団長様は、言いにくそうにモジモジと目線を下にしている。

 なんだろう?この人を見てるとゴールデンレトリバーを思い出させるんだよなあ。

 金髪だし、タレ目だし、優しそうな雰囲気と喋り方のせいだからだろうか。

 ……と、いうか瞳の色が綺麗だな。

 さっきは緑に見えたのに、今は灰青っぽい。角度によって変わるのかな?何とも珍しいけど、この世界では当たり前なのだろうか……。

 

「……という訳です」


 ぼーっと騎士団長さんの顔を観察していたら、話が終わってた。

 いけない、何も聞いていない……!


「へ!?……あ、えっと……?」

「受けてくれますか!?」

「んんー??」

「とりあえず、今日だけでも!!」

「わ、わかりました!分かりましたから顔が近い!」


 余りの勢いについ首を縦に振ってしまった。

 てか顔が近い!!顔がいいんだからやめて欲しい!


 話の内容聞いてないのに安請け合いしてしまった……私は一体何を頼まれたんだ?

 仕方ない、もう一度聞こう……。


「ごめんなさい、私こっちに来てまだ混乱してて……言葉も聞き取れない時があるので、もう一度、1から詳しく説明してもらっていいですか?」


 嘘は着いていない、嘘は。

 これは処世術であって、決して私がうっかりしてました、みたいなことでは無い!

 という言い訳ですごめんなさい。もう一度詳しく説明プリーズ!!


「申し訳御座いません!異世界人様の事情も汲めず……!」

「あ、ケイで良いですよ。私も団長さんって呼びますし」

「では、ケイ様。私が召喚の義に居たことはご存知かと思いますが、あの時は殿下の命故に身柄を拘束してしまい本当に申し訳御座いませんでした……ずっと謝罪したいと思ってたのです」

「え!?あ、いえいえ……って、あれ団長さんだったんか!!」


 そういえばなんかこの緑の瞳は見覚えがあると思ってたんだよ!!拘束されてた時、私が暴れるもんだから、騎士達の拘束がめっちゃ痛かった事を覚えてる。

 あ、だから私が啖呵切ってるところも見てるからちょっと怯えられていたのかあ……納得納得。


 そうだ、あの時は緑の瞳をした騎士さんだけが私を気遣って優しくしてくれたんだよな。あのひっちゃかめっちゃかの中、私を庇ってくれた騎士さんはこの団長さんだったのか……。武装?してたから顔なんか見えないし、わからなかったな。


 ……ちょっと見直しました。


「お気づきでなかったのですか……しかし、本来ならば御守りせねばならない身分の方をあのように……本当に申し訳御座いませんでした」

「いやいやいや!あれはしょうがないよ!偉い奴には逆らえないってこの縦社会決まってるんだからさ!それは異世界も同じってことでしょ?団長さんが謝ることじゃないよ!」

「しかし……私は許せないのです」


 団長さんが、ぎゅっと拳を握る。


「私は、貴女を守る為に命を受けてあの儀に居ました。それなのに……あのような結果となり、王宮は掌返しで貴女を見捨てた。私はそれが許せないのです。騎士道の風上にも置けない。だから、私はそんな貴女に居場所をあげたい、手助けしたい、そう思ってずっと探していたのです」

「団長さん……」


 この世界に来てから、私はあの結果になるかもしれない事も予想してたし、そうなったら誰も頼れないんだろうと思ってたし覚悟していた。だからこそ本当にその結果になった時、冷静になれたし対処もできたと思ってる。

 女神様のチートがあるなんて思ってもなかったけど。あれはラッキーでしかないんだよ。

 基本一人で生きることをいつも心に留めていたから、ダメージは少なかった。

 元の世界だってそうだ。

 基本、一人で生きるんだって……そう決めていたから。


 この世に私を気遣ってくれる他人はもういない、って。


 そう思ってがむしゃらに生きてきたから。

 目の前で、ましてやこの異世界で、得体の知れない自分の事をこんなにも心配してくれてた人が居るなんて思わなかった。

 だから。


 ――……きっと、不意打ちってやつだ。


「ケ、ケイ様!?」

「あ、あれ?……ごめっ、なんか気が緩んだみたい」


 ボロボロと、自然と涙が溢れていた。

 私が泣きだしたら、団長さんがどうしたらいいのかわからん、とあわあわとしだした。それにつられて遠目で見ていた騎士団の皆様もあわあわ、ザワザワとしだしたので、乱暴に目を擦って無理矢理笑ってやる。


「大丈夫!……ちょっとびっくりしただけです、ごめんなさい」

「謝ることじゃありません。……あの、もし、ケイ様さえ宜しければ、ここに滞在しませんか?」

「え?」

「貴女の居場所として」

「そ、それは……どう言う意味で……?」


 団長さんの言葉尻から言って、ずっとここにいろって事じゃないと思う。

 きっとそれは私がここを出ていこうとしていた経緯を知ってるからだと思う。

 だからこそ、滞在という言葉を選んだんだと思うし。


「貴女はまだこの世界をよく知らない。生身ひとつで冒険者でもない婦人がひとり旅をしたりはしません。ましてや魔物もいる。その他の危険だってある。だからこそ、此処に滞在して、この世界の常識や生活を少しでも見て貰えたら……と」

「そういう事でしたか……」


 正直、悪い話ではない。

 庭園の隅は私の事を見つけにくいだろうし、さらに女神様の恩恵で見えないステルス性テントだから下手なことしない限りは絶対捕まらないし見つからない。


 だけどそれでも完璧ではない。

 見つかる可能性は、ある。


 ましてやもらった本があるとはいえ私はこの世界のことを何も知らない。

 知っていることは魔法とスキルと魔物がいる世界だってこと。

 そしてこの国に君臨するのが人でなしってことだけだ。

 

 そう考えると、団長さんに護って貰いながら勉強するのもありなのでは?と思えてくる。


 だけど、懸念が無いわけじゃない。

 それは……この、周りの騎士達の反応なんだけど……。


 私が難しい顔で悩んでいると、団長さんは立ち上がり私の座ってるベンチに来ると、跪いた。

 そして有無を言わさずに私の手を取ると自分の手で包んで握りしめ祈るように見詰める。


 おい、騎士の何某はどこいったんだよ!


 驚いた私が手を離そうとするも、真摯な団長さんの瞳が近くにあった。

 だから近いから!距離感!!距離感を覚えてくれよ!


 慌てる私なぞお構い無しな団長さんは、ごーいんぐまいうぇい。そうだ、この世界のひと、こういう性格なんだった。


「お願いします。あなたは、はい、とだけ頷き言ってくれるだけで良いのです」

「え、あっ……あの、ちょっと……っ!?」


 握られた手を己の口元に持っていき、手のひらにキスされる。


「……私の聖女よ。私に、貴女を護らせて下さい」

「ぎゃ!?」


 イケメンビームが私を貫いた。


 周りに居た騎士たちにも飛び火したみたいで、驚きとざわめきは止まらず。

 私も何も言えずただ頷くだけしか出来なかった……。



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