1の8 龍之介とその仲間、県代表に選ばれる事。(前編)

 僕達『ヤマト村』の闘士もののふ五名は、その後も二回戦、三回戦を順調に勝ち上がった。

 そして準々決勝と準決勝では、かつて代表常連だったチームを立て続けに下す。

 

 ここまで来ると、もう観客や役員、そして応援に来ていた自分の村の住民たちだって、まぐれなんて言えなくなってきたようだ。


『さあ、みんな』

 決勝を前にして、村長のライスケ氏が、僕達を前にして激を飛ばした。

『ここまで来たのだ。もう何も言う事はない!』


 次に僕が言う。

『みんな、勝って村に帰ろうじゃないか!』

 おう、と全員が叫ぶ。


 決勝の相手は、誰もが予想した通り、前年度の県優勝チーム、つまりはディフェンディングチャンピオンのクジョウ村である。

 向こうは全員、背が高く、鬼のようにいかつい身体つきに、鋭い眼差まなざしの持主ばかりだ。


 試合前の話し合いの結果、全員素手、つまり武器を持たずに闘うという事に決した。


 向こうは真っ黒の道着に、背中に漢字の”九”を意匠した紋が着けられている。

 後ろかヤマト村からわざわざ出張って来ていた副村長、それから村民(といっても年寄りと子供ばかりだが)が、精一杯大きな歓声を挙げてくれた。

 

 だが、クジョウ村はこちらより遥かに人口が多いから、当然応援も向こうの方が派手だ。


布陣は、

・先鋒:ゴンゾウ。

・次鋒:カゲツラ。

・中堅:トオマル。

・副将:ヤスケ。

・大将:龍之介、つまりは僕。

 という布陣になった。


『ゴンゾウ、気負うなよ』

 僕は彼の大きな背中を二度ほど叩いて励ます。

『まかしてくれ、兄貴!』

 彼は頼もしい言葉を残し、中央に進み出た。


 勝負は最初の1分ほどは、互いににらみ合う時間が続いたが、その後相手が牽制の蹴りを放ってきた。

 随分大ぶりな回し蹴りで、横腹を狙ってきた。

 ゴンゾウはそいつを腋に挟み込み、左腕で相手の首を抱え込むようにすると、レスリングのそり投げみたいな感じで、背中を見事に反らせながら、後方に投げる。

 板の間に全身を叩きつけられる、派手な音がした。

 

 プロレスでいうなら、前田日明まえだ・あきら選手が得意技にしていた、

 キャプチュード(捕獲固め)に何となく似ている。

 

 しかしこれはプロレスではないから、3カウントなんてものは入らない。

 ゴンゾウは相手の首と足をしっかり抱えて、そのまましめ続けた。


 向こうが幾らデカブツであっても、ゴンゾウの怪力で押さえつけられ、絞め続けられてはたまらない。


 それでもおよそ1分は耐えたが、やがて苦痛に耐えられず、開いている方の手で、板敷きの床を叩き、降伏の合図をした。


 これでまず一勝!

 ヤマト村の応援団から、歓声が沸き起こった。


 次に進み出たのは次鋒のカゲツラ。

 素手での闘いなら、彼にはお手の物である。

 

 相手は背丈も身幅も大きい奴だが、カゲツラは肩から相手の膝目掛けて当たる。

 レスリングでいうタックル。

 柔道でいうなら双手刈りという技だ。


 不意を突かれたのか、相手は思い切り背中から倒れた。

 起き上がろうとするが、カゲツラは逃さない。


 そのまま相手の身体の上にのしかかり、縦四方と肩固めの中間みたいな体制になった。

 構わず肩を抱え込んで絞め続ける。

 

 ついでに己の足を相手の足に絡め、そのまま下に向かって伸ばす。

 大男はたまらず悲鳴をあげ、試合はものの1分足らずで終わった。


 これで2勝目!


 3人目は中堅戦、ケンカなら敵なしのトオマル。

 相手は頭一つくらいの違いだが、ボディービルダーみたいな身体をしている。


 二人は向かい合い、互いにジャブの応酬を繰り返す。

 

 十発目が、トオマルの顔面を捉えそうになるが、彼は身を沈めてそいつをかわすと、負けじと顎にアッパーを二発続けてヒットさせた。

 

 ボディービルダーの腰がぐっと落ちる。

 トオマルはそれを見逃さず、鼻の真ん中目掛け、ヘッドバットの一撃を叩き込んだ。

 相手は鼻血を吹き出しながら、そのまま仰向けに倒れ、片手を宙に上げ、審判に掌を向ける。

(後で聞いたが、これも降伏の合図なのだそうだ)

 三連勝だ!

 ヤマト村の応援団だけではない。

 会場全体がどよめいた。


 そりゃそうだろう。

 前年度の県代表に、この勝ち方なんだからな。





 




 


 


 

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