1の7 竜之介、初試合に臨む事(後編)

 次鋒はヤスケ、彼は蹴り技と棒の使い手だった。

 相手は彼よりも遥かに背が高く、身体もごつい奴だった。

 普通なら、背の低いヤスケはそれだけでビビッてしまうところだろうが、彼は勇気を持ってその大男に立ち向かい、そして見事に勝利してしまったのである。


 向こうも、まるで鬼が持っている金棒のような太さの棒を、まるで竹竿のように軽々と振り回してみせたが、ヤスケはその間隙を縫い、持ち前の身軽さで応戦し、棒で胸を突き、足を絡めて倒し、そこで試合を終わらせた。

 

 相手のミワ村は、応援団も闘士もののふ達も、何だかいつもと違う雰囲気を感じ取ったようだ。


 次は・・・・いよいよ僕、つまり鍬形龍之介の出番だ。

 僕は丸腰、つまり武器は何一つ持っていない。

 一応ライスケ氏からは、一通り武器術は学んだが、幾ら習ったって、所詮は”付け焼き刃”だ。


 上手く使えるかどうか、分かったもんじゃない。

 それならばいっそ、得意なもので勝負した方が自分の力を存分に発揮できる。

 相手は痩せているが背の高い、鋭い目つきの若い男だ。

 

 僕の身長が低いとみて、

”なんだ、こんなチビなら勝てる”

 恐らくそう思ったんだろう。

 何故って、こういう顔をされたのは今に始まったことじゃないからね。


 元の世界に居た時、僕が柔道で相手にしていたのは、身長も体重も、遥かにこっちより大きかったから、こんな顔をしょっちゅうされていた。

 周りで視ていた観客や、どちらの村の応援団も、まさか僕が勝つとは思ってもいないだろう。


『始め!』

 審判の声が響いた。

 だが、勝負は一瞬で決まった。

 僕は相手の懐に飛び込むと、一本背負いで投げ、そのまま相手の腕を取り、十字固めに極めた。

 

 普通なら投げた瞬間に終わるんだが、ここにはそんなルールはない。

 なかなか相手が参ったをしなかったので、僕は思い切り肘を絞り上げる。

 

 ぐきり、嫌な音がする。

 審判がじっとこっちを見ている。

 僕はまた絞りあげた。

 ここでようやく大男は、

『ま、参った・・・・』と、喉の奥から情けない声を出し、降伏を示した。


 一瞬の沈黙の後、場内から割れんばかりの拍手が起こった。

 賞賛されないより、された方が嬉しいに決まっているが、しかしくすぐったい感じがするのは何故だろう。

 自陣に帰ってくると、僕もまた、全員に手荒い歓迎を受けた。


 これでもう、僕らヤマト村の勝利は確定的となった。

 通常の世界の団体戦ならば、ここで試合は終わりになるのだが、この世界はどうやら最後までさせるらしい。

 

 つまりは”武士道”という奴なんだろう。

 続いて副将のカゲツラの出番だ。

 彼も僕と同じく、素手の格闘を選択していた。


 相手は彼と同じくらいの背丈だったが、筋肉の分量は向こうの方が多い。

 しかしカゲツラはそんなもの、モノともしなかった。

 首相撲から、膝蹴りを相手の鳩尾に入れ、ひき倒すとそのまま首をがっちりと締め上げた。

 

 つまりは総合格闘技でいう、フロント・チョークというやつだ。

 審判が何度かかがみこんで覗き、降伏を確認するが、彼はそのまま参ったをせずに、”落ちる”方を択んだ。


 最後は大将戦、ゴンゾウの出番だ。

 彼は木で出来た特大の長刀を持つ。

 

 相手は彼とほぼ同じような、ごつい、岩のような巨漢だ。

 しかし、これも一瞬で勝負が終わった。

 ゴンゾウの長刀が相手の脳天に振り下ろされる。

 相手は必死になってそれを、持っていた六尺棒で防ごうとしたが、真ん中から折れてしまい、ゴンゾウの長刀を脳天にまともに食らってしまった。

 勿論防具である兜(面のことだ)を着用していたから、命の危険まではなかったが、しかしそれでもたまったもんじゃない。

 

 相手は仰向けに、巨木が倒れるように昏倒してしまった。

 かくして前年、不名誉な一回戦負けを喫した相手に、ヤマト村チームは見事古マークで雪辱したのである。


 僕は嬉しかった。

 勝利ってものが、こんなにいいものだと感じたのは、久しぶりの事だった。



 

 

 

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