第2話 お湯で戻す神

買い物途中に立ち寄った駄菓子屋で『お湯で戻す神』と書かれた菓子を見つけた。値段は200円。カップ焼きそばを小さくしたような四角いパッケージには何の説明書きも無く、ただ商品名のそばに『戻そう』とだけ付け加えられている。

こういうよくわからない物体を見るとついつい興味を持ってしまう私は菓子を買い取り、翌日おやつとして職場に持ち込んだ。そしてお昼休みに社食で食べようとした矢先、恐らくお昼前から社食に居座っていたであろう社長の息子・雪夜に見つかり興味を持たれてしまった。


「何それェー、お湯で戻すチ○チ○?」


食欲の無くなるようなことを言うな。そう諭すとこの御曹司は「だって旅先で寄った個人商店にマジであったんだもん」と口を尖らせた。


「でも"神"って書かれてる辺りマジでそういう下ネタグッズかもよ?人類を作ったの神様なんだから」


人類から長く愛されている宗教をこんなグッズで冒涜されてたまるか。言い返しつつ菓子の包装を剥くとカップ焼きそばのようにアルミ製の蓋で密封されていたがその蓋に『楽園』とだけ書かれており、何だか不気味に感じられた私は蓋を剥がそうとしていた手を止めてしまった。


「え、開けないの?」


「いや何か怖いじゃん」


「意気地無しぃ」


雪夜は嘲るように言うと、私の手から菓子を奪い取り蓋を開けてしまった。


「うーわ勇気あるな」


果敢な行動に拍手したのも束の間、雪夜は中身をじっくりと見つめるとゴミ箱に放り投げてしまった。


「おいアタシのおやつ!」


開けるのを躊躇ったとはいえ200円かけて買ったおやつをゴミ箱に放られた私は思わず声を荒らげてしまった。食堂に居合わせた他の社員の皆様からの視線が集まったが気にすることも無く、私は数m離れたゴミ箱に向け席を立った。直後、雪夜の手に掴まれる私の腕。


「何ィ!」


「おやつなら俺の分けてあげるから。俺の事務室来て?」


そう言って強引に腕を引いてくる雪夜の顔は何故か青ざめていた。






おやつをくれるという雪夜の言葉を信じて彼の事務室に赴くと、開口一番「アレどこで買ったの?」と聞かれた。


「普通の店で売ってるようなもんじゃ無いよ。どこで買ったの」


「普通の駄菓子屋だよ」


「普通じゃないでしょ、そこ」


「いやマジで普通だよ」


本当に普通の駄菓子屋なのだ。路地にひっそりと存在するとかそんな怪談チックでない、ショッピングモールの中にあるチェーン店だ。店員さんだって表情1つ変えずに会計してくれたし、バーコードだって読み込んだ。そう説明すると雪夜は「えぇ…?」と眉をしかめた。


「何だよ、マジで何が入ってたの?」


「いやぁ…」


雪夜はしばらく言い渋ったが、やがて「二度と買わないようにね」と前置きをして教えてくれた。


「カラッカラに乾いたミイラみたいなのが詰められてたよ。形は何かわからなかったけど、ところどころ毛も生えててダメな奴だと思って捨てちゃった」


私は信じられない気持ちで雪夜に詰め寄った。雪夜は「マジです」「それ以外の何でも無いです」の二言だけを繰り返しやがったので、私は「月が変わる毎に同じ質問をするから答えられなかったら嘘決定な」と念を押して彼を解放した。

事務室を出る間際、雪夜は私に『薬果』なるシロップまみれの焼き菓子をくれた。甘かった。

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