愉快なメンズに振り回されつつ私は今日も怪奇と出会う

むーこ

第1話 歩く上半身

夕刻の住宅街を、上半身しか無いおばさん2人が歩いていた。上半身しか無いのに『歩く』という表現をするのもどうかとは思ったが、それ以外の表現が見つからないのだ。スライドしていってるとも言えず、這っているともいえず、ただ地面から垂直に立った身体を小さく上下させ、世間話をしながらゆっくり進んでいる。

私は当たり前のようにすれ違い背後へと消えていくおばさん達を、その姿が見えなくなるまで凝視した後、幼馴染の純喜にカトクを送り迎えに来てもらった。キャラクターもののジャージを羽織り酒焼けした喉でウーイと声をかけてきた純喜におばさん達のことを話すと、純喜はケッケッケッと不気味な笑い声を上げて「おめえも見たか」と言った。


「この時間帯になると現れるんだよ。俺が初めて見たのはビー○ィーターグラスでイッキした直後でさ、とうとう酒に飲まれたかと思ったけど一緒にいた奴等も見てたわ」


「○ーフィーター何度あると思ってんの?死ぬよ?」


私の警告に対し純喜は再びケッケッケッと不気味な笑い声を上げた。多分響いていないのだ。


「ちなみにおめえはおばさんって言うけど、アレおばさんだけじゃなくて色んな種類がいるらしい。百姓やってるテツヤ先輩いるじゃん、あの人は」


「百姓じゃなくてグロワーでしょ」


私の指摘に純喜は「売り物の植物育ててんだから同じだべ」と心底面倒臭そうな顔で返してきた。


「話戻すけどあの人は下半身の無い警官に声かけられたらしいよ。足無いのに近づく度に身体揺れるし足音もしたんだって」


大量の○麻に囲まれて暮らすテツヤ先輩の言うことだから信用するのはどうかと思うが、上半身だけの存在なのに『歩く』という表現のピッタリな動きをしている辺りは私の見たおばさん達と同種だと言える。

夕方という時間帯は『逢魔ヶ時』とも呼ばれるくらいだし、やっぱり変わったものの1つや2つ現れるのかもなぁ─そう思い頷いた矢先、純喜から「まだ続きあるよ」と腕を叩かれた。


「先輩なんとか逃げきったんだけど、その3日後ぐらいにコンビニの前で見かけた警官がさ、例の上半身だけの警官と同じ顔してたんだって」


それは大○でイカれたテツヤ先輩の見間違いなのか、それとも本当にそうなのか。もし本当であれば私が見たおばさん達もテツヤ先輩が見た警官も、実在する人が何らかの条件下で上半身だけの姿に見えるようになったのではなかろうか。

まあそうだったところで私には何もできないし何かする気も無いのだけれど。純喜に「ヤバいね。てか帰ろ」とだけ返して歩き出した矢先、前方からやってきたサラリーマンが私達を見るなり「テケテケ!」と叫んで逃げていった。私の思いつきは間違いでなかったようだ。

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