第13話 モグラ
「仕方ありませんね」
「動ける兵士で壁を作る! 近辺の地図も用意しろ! 奴らを止められる地形があればそこに誘導する!」
子供たちに優しい目を向けて微笑んでいたクローナとオルガスの空気が一変。
二人は立ち上がる。
「クローナおねえちゃん、しょーぐんさま……」
そんな二人に対して、キカイの脅威に怯えて震える子供たち。
一度厳しい表情を浮かべたクローナとオルガスだったが、すぐに子供たちを安心させるように微笑んだ。
「大丈夫です。私たちがぜったいにあなたたちを守ります!」
「ふふん、小生らの力を忘れたわけではあるまいな?」
頼もしく言う言葉に、少し落ち着きを見せる子供たち。
一方で、それはあくまで言葉だけであり、絶対の確証がないことは誰もが分かっている。
何故なら相手は、世界の誰もが勝ったことのないキカイなのだ。
足止め、逃げる、それが精一杯の相手から、「必ず守る」というのは気休めにしかならない。
「……ぎゅ」
「え?」
「~~っ」
そんなアークスの手を握ってくるマセナ。
同じ子供たちを子ども扱いしたり、冷たい態度だったり、ちょっとおませだったりとしていたものの、今は普通の子供と同じように不安そうにしている。
「話は聞いたか、救世主殿!」
「あっ、お姉様……」
と、そこで駆け足でトワイライトが駆け込んできて、アークスに問いかけた。
「おい、おぬし……この前みたいな力を出せるか?」
「え? あっ、力って……」
「うむ、おぬしはあのとき、なんか叫んだら右手が変形した……同じことできるか?」
それは、アークスがキカイを蹴散らしたときの力である。
しかし、アークスはそのことを覚えていないため、むしろ自分が本当にそんなことをやったのかと今でも疑問に思っている。
だがしかし、マセナに握られた手。とても小さく弱々しく、そして怯えている。
「や、やってみるよ」
この握られた手はどうしても守らないといけない。
そう思い、アークスはやってみることにした。
「い、いくぜ、う、うおおおおおお! うおおおおお!」
アークスは吼える。
心の中で何度も「出ろ」、「変われ」、「変形しろ」、「なんか力が出ろ」と叫び続ける。
「なぁ、あのにーちゃん……」
「?」
「しっ、少し様子を見ましょう」
「ふむ……果たして……小生も半信半疑ですが……」
アークスの様子を見守る子供たちとクローナたち。
しかし……
「はあ、はあ、くっ、うおおおおお、……う、くそ、何も……何も起こらない……」
何も起こらなかった。
「う~ん……何も起きませんね……」
「うむ、流石にそこまで上手くいかぬか~」
「ええ。小生もよく分かりませんが、恐らく何かやり方があるのかもしれませんね」
何もできないことにアークスは項垂れる。期待外れだと。
クローナたちはそのことでアークスを責めることはしないが、やはり落胆しているのではないかと、アークスは思わずにいられない。
「ドンマイです、アークス!」
「でも……」
「大丈夫です! こういう状況は慣れっこですので、私たちはいつも通りキカイたちを足止めしますので、アークスはここで子供たちと待っていてください」
気にするなと微笑むクローナに、アークスは胸が締め付けられた。
先日のように、森の中で兵たちの鮮血飛び散って遺体が転がる光景が、クローナたちにとっての日常茶飯事。
それをどうにかできるかもしれない希望として自分はこうして保護された。
それなのに、なんの力にもなれないことを気にするなと言われても、アークスは気にせずにはいられなかった。
「では、行くぞ。連中が来る西南に部隊を重点配置! 魔導士部隊は即座に岩でも土壁でもなんでも早急に防壁を作るのじゃ!」
一方で、トワイライトもオルガスもすぐに切り替えて護衛の全兵士に指示を出す。
その指示に兵たちも言われたとおりに陣形を変えて慌ただしく動いていく。
が……
「あれ?」
「……むっ?」
「ッ!? 地面が揺れ……」
「あっ、これは!」
そのとき、地面が揺れた。まるで地の底から何かが近づいてくるかのように。
「え、な、なにこれ? え? ……来る! 地中から……その数、80体! これは地中作業用重機! ……って、なんだ?」
何が何だかわからず、揺れに耐えきれずに尻もちついてしまうアークス。
すると、トワイライトたちは目を大きく見開き……
「おのれ! こんなときに……全軍、その場で停止するのじゃ! 『モグラキカイ』じゃ!」
「え? モグ……」
それはまたしてもアークスには聞いたことのない単語。
その言葉が場に響き渡った瞬間。
「ギャアアアアアア!」
「い、ひいいい」
「いやああああ、げぶっ」
地中から何かが飛び出した。
周囲から突然の悲鳴。
そして、地中から飛び出した何かによって貫かれて大破する馬車。
そこには……
「デリート」
「デリート」
「デリート」
地中からキカイが現れた。
ただし、アークスが先日見たキカイたちとは違う。
その両手は筒の武器ではなく、まるで獣のように鋭い爪が備わっていた。
「き、キカイだー!」
「た、たすけ、助けてくれー!」
「ちっ、なんてことだ! おい、あそこ! 助けに……」
「待ってください、隊長! 下から、ぎゃあああ!?」
西南から近づいてくるといわれたキカイに対して陣形を変えようとしていた連合軍兵士たちだが、キカイたちかまさかの地中から現れた。
民も兵士も関係なく、場が一気に混乱してしまった。
「な、なにあれ……」
「モグラキカイです! まさかこんなときに……」
「モグラキカイ!?」
「はい、地中を移動するキカイです! 他にも空を飛ぶトリキカイ、川など水を移動するサカナキカイなどの目撃情報はありますが……普段滅多に見ないのです! 私も初めて見ました!」
「そ、そんな……」
神出鬼没で現れるキカイたち。それは陸の上を移動しているだけではない。
空からも、水の中からも、そして地面の下からも現れる。
いつどこから現れるかも分からないキカイ。
「ちっ、ミスったのじゃ」
「まかさ今日に限って……小生も見るのは2回目ですが……姫、すぐに――――」
そして、それは「今この真下」からもであった。
――あとがき――
ビックリ! 下記のカクヨムコン短編賞に投げた作品が、週間総合5位でした。自分で皆さんに「読んでください」と言いながらビックリです。ありがとうございます。せっかくですので、まだ見ていない方々いましたら是非に下記リンクからどうぞ。
『白馬に乗った最強お姫様は意中の男の子を抱っこしたい』
https://kakuyomu.jp/works/16816700429486752761
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