第12話 子供たち
「はい、お花の飾りです♪」
「わ~、すごい! クローナおねえちゃん、ありがとう!」
「うふふふ、では私の分はあなたが作ってくださいね? さぁ、さっき教えたとおりに……」
「うん! ここがこうなって、こうなって……できたー!」
クローナと向かい合うようにしながら花の髪飾りを作り合い、ニコニコし合う二人。
その光景を眺めながら、アークスはオルガスに呟いた。
「クローナって、優しくて人気あるんだな」
「ええ。どのような身分の者であろうと分け隔てなく接し、その可憐な笑顔は全ての魔族を癒すのです。本来、このような危険な避難誘導をさせたくはないのですが、キカイを足止めできる実力者で、尚且つ故郷を離れたくない民たちの説得にはどうしてもクローナ様のお力が必要だったのです」
「そっか……」
キカイという脅威にさらされ、その倒し方も分からず、いつ襲われるかもわからない。
誰もが不安で仕方ないはずの状況下で笑顔を見せ、その上で皆の心を動かす。
そんなクローナを見て、アークスも「自分も何か力になってあげたい」という想いを抱く。
だが、自分に何ができるかもわからず、唯一望まれている救世主というものも、今の時点では分からない。
果たして今の自分に何が出来るのだろうと、アークスは少し俯いた。
すると……
「ほら、にいちゃん、とりゃ!」
「わ、わわ!」
突如、小さな男の子から木の枝で攻撃されそうになった。
「にいちゃん、へっぴり腰だぞ! そんなんじゃ、キカイに襲われても殺されちゃうぞ!」
「あ、つ、つ……」
「にいちゃんじゃ話にならねーや! オルガス将軍、おれに稽古つけてくれ!」
「ほぉ、生意気な小僧だ……だが、小生は少々厳しいが……泣いても知らぬぞ!」
ビックリして腰が抜け、小さな子供にも呆れられてしまう。
改めて自分が情けないなと思いつつも、本当に自分がキカイを倒す希望の救世主になれるのかと憂鬱になった。
「ん」
そのとき、アークスに中身の入ってないお皿が差し出された。
「え?」
「ん!」
「……あの……」
差し出したのは小さな女の子。それが何の意図かアークスには分からなかった。
「おままごと。わたし、およめさん。アークスは旦那さん」
「え?」
「あなた、お帰りなさい。……はい、続き!」
「え、あ、え~と、お前は……」
「マセナ」
「あ~、そ、そうなのか」
「はい、続き! お帰りなさい、あなた。ごはんにする? おふろにする? こづくりにする?」
「ちょっ、何を言ってんだぁ!?」
突然おままごとに巻き込まれてアタフタするアークス。
しかし、そんなアークスをマセナという少女は巻き込んでいく。
すると、そんな状況をクローナは興味深そうに眺めていた。
「あら~、あなたは昨日、おままごとをやりたくないとお断りされていましたのに……」
すると、クローナの言葉にオルガスに鍛錬を申し出た子供が走って戻ってきた。
「そ、そうだよ、マセナ。お、俺が夫役をやってやるよ!」
鼻息荒くして申し出る少年。
しかし、マセナはプイッと顔を背けた。
「やだ」
「え……」
「ガキはきょーみないし」
「はうっ!?」
その容赦ない一言に落ち込む少年。
しかしそれに構うことなくマセナはアークスの手を握った。
「兵隊さんたち怖い。でも、こいつ怖くない。だから、こいつでいい」
「え、えええ?」
「ん、はやく続き」
独特な態度でアークスの手を引く少女。
その様子にクローナは嬉しそうにニッコリとした。
「遊んであげてください、アークス」
「クローナ……」
「この子たちは慣れ親しんだ生まれ故郷から離れなければならない……生まれたときから世界は戦争で……今度はキカイの恐怖……だからこそ、こういう子供として子供らしい時間を過ごすことは、とーっても大切なのです」
「子供……らしく……」
クローナに言われてアークスも納得した。
「うん、分かった。じゃあ、ゴハンにするよ」
確かにそれぐらいで役に立てるのなら……むしろ、それぐらいなら自分もできることだと感じた。
「ん~……あなた空気読めない」
「え?」
「そこは、わ・た・し……おんなにハジかかせるおとこはダメ」
「え、えええええ!? も、もう、お前はそんな言葉どこで……」
もっとも、マセナに子供らしい時間を……と言いつつも、どこで覚えたのかという言葉にやはりまた慌ててしまうアークス。
ただ、一方で……
――お前もまだまだガキだねぇ~
「ッ!?」
脳裏にまた「誰か」の声が響いた。
「あなた、どーしたの?」
「アークス?」
それは、何度か今まで脳裏に響き、自分の記憶と何か関係のあると思われる人物。
――でも、俺は……
――やれやれ、そろそろ成長しろっての、お前はよぉ~
――お、俺だって大人になろうと思って……
――そうじゃねぇ。別に大人にならなくてもいいんだ
――え? どういうこと?
――お前はガキでもなく、大人でもなく――――
アークスは脳裏に流れるその声に、何か自分のことを掴めそうな気がした。
だが、その時だった。
「オルガス将軍、大変です! 見張りの者から、北東から移動してくるキカイを30体ほど発見。この速度ですと遭遇します!」
「な……なに?」
突然馬車の中に兵士が慌てて駆け込んで報告。
その報告を受けて、クローナとオルガスの、そして子供たちの表情も変わり、一瞬で緊迫した空気が場を包んだ。
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