第6話

 まみちゃんとは、3年で初めて同じクラスになった。体が弱くて運動はあまりできないけど、穏やかで優しいまみちゃんとはとても気があった。家の方向が同じだったから、登下校も毎日一緒だった。

 4年でも一緒のクラスになれて、最初は嬉しかった。だけど、状況が変わってしまった。学校にいる時、まみちゃんを無視しないといけなくなった。それでも登下校だけは一緒だった。

 ある日、うっちゃんに一緒に帰ろうと誘われた。私は断れなくて、うっちゃんと一緒に帰った。うっちゃんは「朝も一緒に行こう」と言った。私は断れなかった。うっちゃんの家は私の家より遠いから、次の日からは早く家を出てうっちゃんの家に行って、一緒に登校した。


 その日から、まみちゃんと会うことがなくなった。




 熱風にあおられ、1枚目の手紙が舞い上がる。2枚目の手紙には、10年後の私に向けたメッセージが書かれていた。

『10年後のわたしへ。

 10年後、わたしはまみちゃんと、仲直りしていますか? ちゃんとまみちゃんに、あやまりましたか?

 わたしは、まみちゃんにひどいことをしました。すごく後かいしています。だけど、4年4組の間は、あやまることができません。まみちゃんにあやまったりしたら、今度はわたしが仲間外れにされてしまいます。

 もし、まだあやまってなかったら、まみちゃんにあやまってください。まみちゃんはやさしいから、きっとゆるしてくれると思います』

 10年経った今でも、私はまみちゃんに謝れていない。

 5年生になっても、まみちゃんは学校に来なかった。その原因が不登校なのか病気なのか分からないまま、夏休みに引っ越したと聞いた。


 あれから約10年。今日まで、まみちゃんを思い出すことはなかった。




「まみちゃん……」

 深い後悔の念に苛まれ、手紙を拾おうと手を伸ばす。すると、手紙のすぐそばに、小さくて細い足が現れた。視線を上げていくと、そこに立っていたのは小柄な女の子。

「まみちゃん……」

 肩にかかる真っ直ぐな黒い髪、白い肌、ぱっちりとした目。その姿は、10年前のまみちゃんと少しも変わってない。

「まみちゃん。ごめんなさい……ごめんなさい……」

 まみちゃんが学校に来なくなってから、何があったのか分からない。どんな気持ちであの手紙を書いたのか分からない。

 ただ分かったのは、まみちゃんはもうこの世の者ではないということ。

「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」

 拾った手紙を握り締め、涙を流しながら、何度も謝罪の言葉を口にする。

 頭の片隅で、この手紙も爆発するかもしれないと思った。それでもいいと思った。焼き殺したいほど、みんなを、私を恨んでまみちゃんは死んだのなら。

 いつまでも爆発しない手紙を胸に抱いて顔を上げると、まみちゃんはふっと笑って姿を消した。

「まみちゃん。許して、くれたの……?」

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