第9話 阿蘇の山里

手紙など出しようもないが・・・母上は元気にして居られるだろうか・・・

阿蘇外輪山を越えた処に山田の里がある。里からは阿蘇五岳が見える。中岳には火口があり噴煙が立ち上っている。この雄大な景色を見たらなんと言われるだろうか。

この里に骨を埋める覚悟のある者には家を下さる。このまま残るか、三年勤めて河内国に帰るか・・・決めかねていたら母上から文が届いた。

「家が出来たら知らせるように。嫁を連れて行く・・・」


阿蘇の山々が緑になる頃、本当に嫁を連れてやってきた。おまけを連れて・・・。

母上によると大名の改易が続き浪人が溢れ、物盗りや人殺しの話ばかり聞かされる。比べてここは人も優しく土地柄も良い。なにより仕える主が居る、本当に有り難い事だ。

この地に骨を埋めるなら身内は多い方が良い。嫁の「弓」と弟の「太郎」だ。父親は父上の同輩で、お勤め中に亡くなった。お館様が石を置かれた義の者だ。心して太郎を育てるように・・・。夜、杯を交わし弓は妻になった。


国を出る前、父上様母上様と親子の杯を交わした。太郎の仮親にもなって下さった。兵庫津では兄上様から小袖と帯を頂いた・・・と弓は嬉しそうに話してくれた。


この山里の陣屋には常時二十名程が留まっている。上から下まで皆が河内国から来ている。

下働きの者は一年契約、三年が限度で他の場所に移って行く。ご法度なので変えようも無い。国から嫁が来たと皆が親切にしてくれる。おかげで味噌や野菜は途切れることが無い。

一月ほど一緒に過ごした後、母上は鶴崎から船で帰って行った。


文を運べば良いと思っていたが、それだけでは無かった。

表に出せない主な仕事は「米」だった。

助太夫様の大切な仕事・・・


六つ、知られてはならぬ事がある。

我らが行うのは武士の商売・・・物を仕入れて売り、利ザヤを稼ぐのでは無い。

米を高く売る、これに尽きる。

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