7日 時間差1分

 私の部屋には時計が3つある。

 どれも少しずつ時間が違っている。


 母はそれを見る度にいう。

「時計くらいちゃんと合わせなさいよ。どれが本当かわからないじゃない」

「全部本当の時間だよ」

 私は3つの時計を順番に指さした。

「右のが1分前のわたし用。真ん中が現在ね。で、左が1分後のわたし用」

 あほらしい、と母は顔をしかめた。

「それじゃあんたが3人いるみたいじゃないの」


「いるよ」


「いるよ」


「いるよ」

 

 3人のわたしが答えた。時間差はそれぞれ1分。


 でも母には現在の私の声しか聞こえてない。

 だって現在の母は、現在の時間にしか生きてないから。


「なんでもいいけどね、もっとちゃんとしなさい。それとたまには家に顔を出しなさい。お父さんも寂しがってるから」

 母はいつもの小言を残して帰っていく。


「はあい」


「はあい」


「はあい」


 3人のわたしは素直に答える。時間差はそれぞれ1分。

 わたしはスマホをかざして母の後ろ姿を録る。


 3人の母が順番にドアを開けて出て行く。


 その時間差1分。

 






 

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