第57話 あなたが犯人だったの?1月25日

 カクヨムコンチ! というキメゼリフのあと、坂井令和(れいな)さんは犯人を指した。

「犯人は、あなたです。ドーン」

 まさか、この中に犯人が?

 ミカン、無月さんふたりも驚愕、ガクブル(((( ;゚Д゚)))。

「坂井さん?」

「なんですか」

 落ち着きを取り戻した3人。

「誰もいませんけど、そっち。もしかして目が悪いとか?」

「イケメンを見分けるくらいの視力はバッチリですよ」

「じゃあ、やっぱりメタ的存在ですか」

「ある意味そうとも言えます」

 うーん、誰だろう。おおっとぉ、作者が思いついていないだけだろって思った? ちがいます。坂井令和(れいな)さんはもう事件を解明していますからね。犯人だってわかっているのです。ただ、凡人にわかるようには丁寧に説明してくれていないだけ。それだけだからっ!

「じゃあ、ある意味ちがうともいえるんですか」

「そう、ある意味ちがいます」

「どういうことですか」

「つまり、カメラに向かってドーンです。犯人はリアルタイムの読者の中にいます!」

「この3人の中じゃないんですね。よかったぁ」

「無月弟さんは容疑者でしたもんね」

「そうです。容疑者にされちゃったんです」

 おかげで謎が深まりました。ありがとうございます! そうでもなかった?


「それで、読者の中の誰なんですか。20人もいないか、15人くらい読んでいますよ」

 ありがとうございます!

「誰かわからない人が犯人だったなんて言ったら、アンフェアすぎますよね」

 坂井令和(れいな)さんキビシイ。

「本格ミステリ好きってわけじゃないから、わたしは気にしませんけど」

 そうよ、ミカンえらい! 言ってやって、言ってやって。

「わたしが、本格ミステリマニアなんで。アンフェアは許しません」

 ごめんなさい。ごめんなさい。ミステリーって、本当にむづかしいものですよね。水野 晴郎。

「でも、読者のうちの誰かが犯人なんですか? どうやってわかるんですか」

「わたしははじめからわかっていました。事件が起きる前からね」

「本格ミステリマニアすごいですね」

「まかせて」

「それで? 結局、誰なんですか」

 ピンポーン。

「きました」

「えっ、犯人呼んでいたんですか?」

 マジか。誰だろ、ドキドキ。

「犯人が事務所にきてくれる事件しか扱わないんだが」

 甘党すぎる探偵じゃーん! あんたリアルタイムの読者だったの? 小説のキャラじゃなかったのぉー? チュッパチャップスを奪ってやりたい。わたくしを殺したのは探偵だったのか。神様に逆らうとは、言い度胸ね。

「待って。落ち着いてください、究乃さん。探偵はおかし食べているだけで、無害です。役にも立たないけど」

「そのとおり!」

 威張るところじゃないから。

「九乃さんのキャラで探偵の役目は、犯人を連れてきたり、依頼人を犯人のところに連れて行ったりすることです」

「ということは?」

「どうぞ、はじめまして。野々ちえさん」

 えぇー! 野々ちえさんが犯人だったのぉー? いや、知ってたし。予定通りだし。マジか。

 悠然とあらわれた野々ちえさん。部屋へあがってくる。

「靴は脱いでください」

 わたくしの部屋っ! 靴は脱いでほしいものです。って、西洋人かっ。遅れツッコミ。


 ダイニングキッチンにひとが密集している。こんなことははじめて。友達いないものね。

 坂井令和(れいな)さんはアーロンチェアで背もたれでびよーんびよーんとやっている。ミカンは立ってコーヒーを淹れている。真面目くさってスプーン山盛りのインスタントの粉をカップに入れた。そこはさっといれちゃえばいいのに。無月さんはふたり並んで立っている。

 野々ちえさんはダイニングキッチンで使っているイスに落ち着いている。


「あの、なんで野々ちえさんはお姉ちゃんを、というかカズキもだけど、殺したんですか」

 犯人としてやってきた野々ちえさんに対してはミカンも怖れを抱いている。刑事の父親に武道を仕込まれていても、異質な存在には慣れていないのだ。人を殺したことのある人になんて、めったに会うことはない。

 野々ちえさんに慎重にコーヒーのソーサーを渡す。もちろんカップが載っていて、コーヒーがたゆとうておりますがな。

「それはさっきわたしが説明しました。九乃さんの存在が邪魔だったからです。存在を消し去るために殺しました」

 野々ちえさんじゃないのに、坂井令和(れいな)さんが答えてしまう。

「存在が許せないほど憎いって、お姉ちゃんは野々ちえさんにどんなひどいことをしたっていうんですか」

「憎いなんて思っていませんよ、野々ちえさんは。存在が邪魔だとわたしは言ったのです」

「憎くなくて邪魔ってどういうことなんですか。まったくわかりません」

「そうですね、ゆっくり説明しましょう」

 お願いします! ゆっくり!

「まず野々ちえさんの名前に注目です。あ、紙と書くものありますかぁ?」

 ミカンは自分のバッグからノートと筆入れを出してノートを渡し、筆入れからボールペンを取ってカチッとペン先を出してから、これも渡した。

「野々ちえさんの名前をこんな風に変えて書きます」


 の乃チエ


「それから、はじめの文字の『の』をちょっと押しつぶしたように書いて」

 高さが半分くらいまで押しつぶされた『の』をもとの『の』の下に書いた。



■■■■■■■■■■■■■■■■

■■のののののののののののの■■

■のの■■■■のの■■■■のの■

■のの■■■のの■■■■■のの■

■■のののの■■■■■■の■■■

■■■■■■■■■■■■■■■■


「これを右に90°回転すると」


■■■■■■■■■

■■のののの■■■

■のの■■■のの■

■のの■■■のの■

■■のののののの■

■■■■■■のの■

■■■■■■のの■

■のの■■■のの■

■■ののののの■■

■■■のの■■■■

■■■■■■■■■


「あーら不思議。数字の9になりましたぁ。9乃チエですね」

「もしかして、九乃さんと野々ちえさんは異母姉妹なんですか」

 そうだったの? たしかに他人とは思えない親近感がどことなくあったような。

 アネキ!

「ちがいます」

 ちがうんかーい! だって、同じ九乃なんだよ?

「まだ終わりではありません。チエを入れ替えて、エチにします。『エ』をやっぱり90°回転するとどうなりますかぁ」



エエエエエ

  エ

  エ

  エ

エエエエエ


 エッチじゃん。そうか、野々ちえさんはエッチなのね。

「アホですぅ、究乃さん」



エ   エ

エ   エ

エエエエエ

エ   エ

エ   エ



「これって、どう見えますかぁ」

 すこし棒をずらして書く。


 エ   

エエエエエ

 エ  エ

 エ  エ

 エ  エ


「『カ』ですか」

「そうです、無月弟さん。元容疑者だけあって真剣ですね」

「それはもういいです」

 なんだかドキドキしてきた。これってどういうこと?

「『チ』もちょっとゴミを払ったら、どうなりますかね」

 9乃カナ、九乃カナだっ!

 ということは、わたくしたち双子だったの? おねえちゃーん!

「ちがいます」

 がくっ。ちがいますか。

「九乃さんと野々ちえさんは互いにドッペルゲンガーの関係にあるのです」

「ドッペルゲンガー!」

 ドッペルゲンガー!

 見たら死んじゃうやつ! イヤー!

 って、もう死んでたわ。究乃カナなんだった。

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