第55話 解決篇はじめるよ1月23日

 ばちばちっと、雷撃が走って球形の闇が田んぼを走る田舎道にあらわれた。

 だだん、だん、だだん! だだん、だん、だだん!


 闇が払われると、坂井令和(れいな)さんが膝をついてしゃがんでいた。

 だだん、だん、だだん! だだん、だん、だだん!


 レイネーターである。

 いや、誰だかわからないから、やっぱり坂井令和(れいな)さんで。


 顔をあげる、枯れた田んぼの向こうに立つマンションを見つけた。九乃カナが住んでいたマンションである。もっと向こうには雪をかぶった山が空との境界となっている。青と白のコントラスト。形は富士山みたい。富士山ではないけれど。

 立ち上がり、力強い足取りで田んぼ道を歩みはじめる。素っ裸ということはない。昼間から素っ裸ではヘンタイである。昼間じゃなくてもヘンタイか。ともかく、究乃カナの配慮である。


 マンションの九乃カナの部屋の前。呼び鈴を鳴らす。

『どちら様ですか』

「レイネーターですぅ」

 👍

『はい?』

「間違えました、坂井令和(れいな)です。探偵ですっ」

 ちょっと気分が浮き立つ本格ミステリマニアの坂井令和(れいな)さん。

『はい?』

「とりあえずドア開けてください」

『警察呼びますよ』

「ごめんなさい、やめてください。そうだ、九乃カナさんの依頼です」

『お姉ちゃんの? 余計うさんくさい』

「九乃さん……」

 坂井令和(れいな)さんは九乃カナと妹との関係を思った。妹も苦労したのだな、と。ミカンちゃんと言ったっけ。

「そうでした、ミカンちゃんが誘拐された事件も解決することになっています」

『はあ』

 がちゃっと音がしてドアが少し開いた。金属のバーで少ししか開かないようにしてある。

「坂井令和(れいな)さんというのは、なぜ名前にカッコがついているんですか」

「令和の和はナゴむって読むからナということにして、令和でレイナって読んでもらうためですー。レイワじゃないよってことで」

「ふうん」

 また金属音がして今度はドアを開けた。

 怪しいのってそこなのって思ったけれど、坂井令和(れいな)さんは口にしなかった。またドア閉められたら話が先に進まないから。


 カウンターキッチンに向かって座り、ミカンがコーヒーを淹れるのを待つ。インスタントである。九乃家では、九乃カナしかレギュラーコーヒーを淹れない。メンドクサイことはやらないご家庭なのだ。淹れてもらえれば飲む。

「ミカンちゃんは事件のこと把握していますかぁ」

「わたしは寝ていただけだから知りませんよ」

「リアルタイムとか読まないんですかぁ」

「小説のキャラなんで、ゲームのNPCみたいなものです。なので、リアルタイムを読むことはできません。メタな存在じゃないと読めませんから」

「そんな設定いらないのに。説明で文字数を稼ぐつもりなのかなぁ」

 坂井令和(れいな)さんはミカンに第1の事件のことを説明した。しまった、1行で済ませてしまった。セリフで延々説明すればよかったか。書くのがメンドクサイからいいや。


「そんなインチキくさい事件が起きていたんですか」

「わたしは本格ミステリ好きなのに、アホ小説につきあわされて散々です」

 インスタントコーヒーをずずっと飲む坂井令和(れいな)さん。でも、散々な目に遭うのは慣れているはず。知らないけれど。

「それじゃ、密室から消えた死体の謎は解けたんですか?」

「そんなの謎でもなんでもありません」

「すごい。坂井令和(れいな)さんはお姉ちゃんとはちがう。わたし坂井令和(れいな)さんのこと、きっとお姉ちゃんのアホ仲間なんだと思っていました。すみません」

 むしろアホの師匠だけどね! この声はミカンに届かない。ミカンは坂井令和(れいな)さんがきてから5個目のみかんを口に運んだ。

「密室から消えた死体の謎解きしてください」

「ミカンちゃん、関係者をみんな呼んでっ!」

「リアルタイム読んでいるからきっと勝手に集まりますよ」

「そうねっ!」

 ピーンポーン♪ 無月さんがやってきた。動きがシンクロしているから玄関でひっかかった。譲り合って狭い廊下も通り、ダイニングキッチンの部屋へはいった。イスはひとつしかないからふたり並んで突っ立っている。


「坂井令和(れいな)さん、はじめましてですね」

「いま胸見ました?」

「見ません、興味ないんで」

「うそでしょっ、わたしのGカップに興味がないなんて」

 胸を押さえる。究乃カナからはノーコメント。

「密室から消えた死体の謎が解けたって本当ですか」

「スルーされた。(´Д⊂グスン」

 カウンターに突っ伏す。

「橙 suzukake さんはこないのですか」

「地下倉庫で殺されちゃったからきませんね」

 ぐすん。坂井令和(れいな)は顔をあげる。

「幽霊になってくるのでは」

「幽霊はメタ的な存在だから無理ですね。リアルタイムを読んでいますよ、きっと」

「よくわからないけど、そうですか」

「坂井令和(れいな)さん、謎解きしてください。どうやって密室から死体を消したんですか」

「死体は消えていないというのが答えです」

「でも、消えていましたよ」

「死体が消えたというのは、ここですね。九乃さんだけがこのページへ行って現場検証をした」

https://kakuyomu.jp/shared_drafts/U78UCeOOFeBAuFe9cHVxWJakeJXDldAJ

「やっぱり密室に死体が見つかりません。どこかに隠してあるってことですか。それともメタ的になってわたしたちに見えないってことですか」

「ミカンちゃん、落ち着いて。死体を隠す場所なんてないし、メタ的とか言ったらミステリーではなくなってしまうでしょ」

「でもアホ小説なんだし」

「解決もアホっぽいかもしれないけれど、論理はあるよ」

「本当ですかぁ?」

 ミカンは胡散臭そうな顔。アホ仲間ではないと見直したはずなのに。

「では、死体を出してあげます」

https://kakuyomu.jp/shared_drafts/N8flUN252j6Wo1hHV2CL9Z9wBR5k1cai

「ね?」

「どういうことですか」

「もうわかりきったことなんでは? 事実を受け入れてください。密室はふたつあったのです」

「ひどい。だまし討ちです」

「わたしのせいではないですぅ。悪いのは九乃さんですよ」

「じゃあ、犯人は誰なんです?」

「よいところに気がつきました、無月さん」

「自然な疑問ですけど」

「でも、ちょっと待ってください。いま話すのは早すぎます。機が熟すのを待ちましょう」

「九乃さんが思いつくのを、ですか」

「いいえ! もう謎はすべて解けています。わたしが解きました。だから九乃さんの都合は関係ありません」

 そうなの? 頼もしすぎる、坂井令和(れいな)さん! ありがとう。

「どうやって密室に死体を置いたかというのは?」

「それは犯人につながるからあとまわしです。今は死体が消えたというミステリはなかった、ということだけで満足してください」

 坂井令和(れいな)さんもっと文字数をかけてくれてもよかったのですよ。5000文字くらい使ってよかったのに、3000文字いかずに終わってしまったよ。

「名探偵は事件解決に文字数を使いません。名探偵は!」

「なにを言っているんですか、坂井令和(れいな)さん」

「なんでもないですぅ」

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