第22話 首と肩と背中が痛い12月22日

 もともと落とし穴の底にいたのに、さらに足元が崩れて。九乃カナは落下する浮遊感を味わった。嫌いな感覚。加速度系はダメだ。

 今度は背中から叩きつけられ、息ができなくなった。下に石かなにか堅いものがはさまって、背中のダメージはさらにひどかった。

 筋肉痛なんて、3メートルの落下からしたら楽なものだった。今は地獄の苦しみ。横向きになって体をまるめ、咳の反射に耐える。背中が痛いのはどうにもならない。


 九乃カナが落ちた地獄は地下道らしかった。天井が壊れて土砂が落ちていた。旧陸軍の本土決戦に備えた工作か。そんな大したものではないか。お城を作らせた大富豪が面白半分で地下道も作らせたにちがいない。


 九乃カナはゆっくり立ち上がった。立ちくらみを警戒した。立ちくらみは脳に悪いのだ。小さなダメージが蓄積する。だから、立ちくらみをしないように対策している。脳は大事。

 立ち上がるときは足を伸ばす、上半身を起こす、と2段階方式にしている。膝に手をつくとやりやすい。これだけのことで立ちくらみしなくなる。

 立ちくらみの素人が立ち上がるときというのは、ふたつの動作を同時にしてしまう。すると、足から血がのぼってくるのに時間がかかり、頭は血が足りなくなる。たちくらみの原因だ。ったく、これだから素人は、と眉をひそめられることになる。立ちくらみのプロかどうかは、立ち上がる動作ですぐにわかってしまうのだ。

 君も今日から立ちくらみのプロになりたまえ。


 体をはたいて、髪もかきあげ、しごき、跳ね上げ、ほこりを落とす。コートを脱いではたく。これでとりあえずよいことにしよう。

 お城で失敬した懐中電灯を取り出してつけた。地下道らしき構造物は、地下をくり抜きコンクリートで固めて作られていた。両方向にのびていて、先はどこまでつづいているか見えない。

 一方はお城だろう。ということは、もう一方は教会の地下墳墓だな。決定事項よ。


 どちらへ進むか決めなくてはならない。壁を登って天井を抜けて落とし穴にもどるなんてことは却下である。

 地下道にはゆるやかに傾斜がついている。お城から湖までどうだったっけ。湖からはぽよーんぽよーんと跳ねて駆けることができたということは、下りだったのだろう。お城からもくだっていたにちがいない。

 うん、くだってゆこう。いざ、地下墳墓へ。


 九乃カナは進行方向に懐中電灯を向けた。しゅうぅと冷たい風が通った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る