第7話 早く来たクリスマス12月7日

 金属光沢の鈍い輝きがきらめく。鋭利な先端はやわらかな体に抵抗なく滑りこむ。奥深くまではいって、切り裂く。

 切り取った一片を口へ運ぶ。九乃カナは愉悦の笑みを浮かべる。口の端についたクリームをなめとる。


 ヤマザキのチョコレートケーキ2個入りのプラスチックケースには、メリー・クリスマスとシールが貼られていた。そうか、今日はクリスマスか。天候不順で毎年早まっていたのだな。そんなわけはない。


 クリスマス商戦である。ものの有り余った時代。買うより売るのがむづかしい。そんな時代に突入してもう何十年だよ。イベントにかこつけて物を売ろうというのは、誰だっけ、平賀源内? うなぎを土用の丑の日に食うもんだと言いだした小賢いおっさん以来、定番の手法となっている。

 最近ではハロウィーンが広まっているし、そのうちなんとかいうキリスト教の聖人の記念の日なんてのもイベントとしてぶっこんでくるにちがいない。モノが売れないから困っているのである。製造業も小売業も。


 なぜ売れないか。多く売ろうとするからである。多く作ったものをみんなに買ってもらおうとするから。みんなが欲しがるものなんてもうないってのに。iPhone ? わしはアンドロイドじゃい!

 時代はちょっと作ってちょっと売るしかなくなっているのだ。大企業よさらば。

 ちょっと作るくらいなら大企業でなくてもできる。なんなら個人でだってできる。多くの人に売らなくてよければ趣味に突っ走ったモノだって作って売れる。新時代の商売じゃな。


 おっと、ここは9ちゃんねるではなかった。調子が狂っちゃった。平賀源内のせい。責任とってよ。


 コーヒーにはチョコレートが合いますな。相思相愛。同じ材料でできてるんじゃないのってくらいのベストカップル。

 でも待って! チョコレートの原料はカカオ豆。コーヒーの原料はコーヒー豆。

 カカオ豆はガーナが有名でアフリカなイメージだけれど、中央アメリカ、南アメリカの出身だって。いまウィキペディア見た。

 対してコーヒー豆は種類があるけれど、アフリカの出身。これもウィキペディア。


 ということはアメリカとアフリカ、中に大西洋をはさんで七夕状態なのだ。相思相愛なのに遠く隔てられてかわいそうなコーヒーとチョコレート。一緒になれるのは九乃カナのお口の中だけなんて。


 アメリカとアフリカはもとはひとつの大陸だったということは、コーヒー豆くんとカカオ豆さんは仲良くしていたのに、キャピュレット家とモンタギュー家の争いに巻き込まれて引き裂かれてしまった。本当にあわれ。しくしく。



 ケーキって、クリームがないと物足りない感じはあるけれど、売っているものを食べるとクリームこんなにいらねえと思ってしまう。クリームばっかりで食べていて気持ち悪くなる。小麦粉はお高いのか、スポンジよりクリームがたっぷり。

 ヤマザキのチョコレートケーキも、食べはじめはご機嫌だったけれど、食べ終わる頃にはうんざり。どうにかして。半分でよかった。


 うんざりした視線をあげると、向かいで探偵がココアをおいしそうにすすっているところだった。ココアは探偵の持参である。いつでも持ち歩いている。

 チョコレートとココア、カカオ豆からできているわりに、どちらも同じようなもので相性はよくない。チョコレートケーキをココアで食べるのは探偵くらいのものだ。そう思うと、このカップルは百合だな。

 チョコレートとコーヒーがノーマルなカップル。うん。


「それで? 進捗は?」

「それどころではない。もうクリスマスが近いじゃないか。クリスマスにはいろいろな菓子が登場してこの季節でしか味わえないものも多い。買いに行ったり食べたり忙しくって」

「帰れ」


 はあ、またアホな小説もどきでお茶を濁してしまった。反省はしない。前進あるのみ! 前を向いて進め!

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