そんな夜。

 二段ベッドの下の方で小野寺マモルが眠っている。


 昼間王都で買ったばかりのシャツとハーフパンツを着て、疲れていたのだろう、いびきまでかいている。


「ふ……」


 そんな普段は気力の気の字も無い少年の、無垢な寝姿を見て、ガオンはふと笑ってしまった。


 両開きの窓を開け、その場に腰掛けながら夜風に当たるガオン。


 手元には、マモルの教科書。この世界の歴史の教科書だった。


 ガオンは開いていたページを撫でる。


 そのページには、この世界の偉人。初代シド・ロードサモン・アールフレンドの紹介と写真が載っていた。


「まったく、ピックルス、お前さんは……こんな立派な名前と、厳つい顔つきを授かりおって……あの優しくも泣き虫のお前さんが、あれから後世にこんな偉業を成したとは。人間の人生とは、かくも面白いものだ」


 ふと、ガオンは夜空を見上げる。


 たくさんの星々に、明るい月が広がっていた。


「あの頃となんら変わりのない夜空でも、大地では今もたくさんの命が動いている」


「ふが、くっしょん!」


 振り向くと、冷えた夜風でマモルが寝ながらくしゃみをしていた。無意識に寝返りを打って毛布に包まった。


 その姿を、とても平穏な心持ちで見るガオン。


「なあ、みんな」


 もう一度、ガオンは夜空を見上げ、静かな時を堪能する。


「平和とは、まっことに良いものだな」


 風がゆっくりと吹き、大胸筋に、上腕二等筋に、大腿筋に、そして頬を通り過ぎていく。全身で、さまざまなものに満たされる感覚に浸るガオン。


「さて、明日はどんな風が吹いてくれるのかな?」


 在りし日の昔に、ガオンはマモルを起こさないように、小言で問いかけた。

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