轟け!!大逆転の筋肉不死鳥!!

突然の来訪。

「はぁ……」


 午前中。


 魔術の勉強と言われても、俺たちの世界には魔術なんて存在しなかったわけで、魔力すらも持っていない。手の平から炎の玉を出すって、どんな感覚や精神で持ってやればいいのか……。第六感か第七感にでも目覚めればいいのだろうか?


 他の異世界から来た生徒もいるらしく、その世界にはかろうじて魔術的な何かが存在していたのだろう。この世界に来て初めて魔術を出したという生徒もいた。


 だが、俺たちの世界に魔素子、精霊素子、神格素子とかいう、魔術を構成する物質は存在していないわけで。


 つまりは、魔術に関しては完全にお手上げだった。


 この場合、この世界に居座って馴染めば開花する場合もあるらしく。今のところ一年生の時点では知識の方に重点が置かれた。


 ただし、魔術が使えない場合でも、毎週レポートを書けばいいのだが、毎週レポートを提出とか精神的にもキツイ。


 魔術は血統以外にも、才能で出来るかどうかが試されるらしい。俺にはその両方を持っていないんだけど。


 扱えないものの勉強って、ホントと何の役に立つのだろうか?


「まあ、魔術に限っては、出来ぬものはしょうがないな。マモルよ」


 妖精化。ちっさいおっさんになれることを知ったので、勉強に集中するためと言い訳を作って、これからは食事以外は、常時ガオンには妖精化してもらう事にした。日がな一日、やたらでかいマッチョのおっさんを連れて歩けるわけがない。


 更衣室で体育服からもとのブレザーの制服に着替えて、自分のクラスに戻る。


 と――


「あえ?」


 考え事をしていたせいか、自分の席に近づくまで気がつかなかった。

 俺の席に、一人の女性生徒が立っていた。


「…………」


 不意に間抜けな声を出してしまい、こちらに振り向く。


 きれいなパープルアイ。宝石のような眼で、今にでも吸い込まれそうな感覚になる。


 白髪のショートカット。かといってボーイッシュなわけでもない。むしろ線の細さで髪形が相まって可憐。まるで触れてしまえば簡単に折れてしまいそうな、そう、まるで花のような女生徒。


「あ……」


 思い出した、先日王都へ観光に行った時に、学園から出る前に見かけた学年の違う女性生徒……。


 すごく綺麗で、どこか儚げで、見ているだけで胸の鼓動が早まる。


 この女性生徒表現するなら可憐、綺麗、美人。


 そう語彙が麻痺してしまいそうなほどに……これだけしか言い表せるものが思い当たらないのに、悔しい自分ができてしまいそうな様相の女性生徒だった。


「…………」

「…………」

 どき、どきどきどきどき……

「…………」

「…………」

 どきどきどきどきどきどき……


 やばい、顔が熱い……何かずっとみつめられていて、俺の顔に何かおかしなところがあるか、自分がどんな表情をしていて、大丈夫なのかが気になってくる。


「そのタイの色は、二年生ですな」


 緊張の糸を切ったのはガオンだった。


 女生徒もはっとなる。


「あ……」


 こぼれる声、立った一言のその言葉さえ、心地良く聞こえる。


「私、レイナ・レイス。二年生」

「は、はい……」

「小野寺、マモル? 君?」

「そ、そうです」


 今になって気がつく、体ががちがちにこわばっていた。だが、恐怖でこわばっているわけではない。なんというか、その……よく分からないが、体がかちこちになっていた。


 レイナ・レイスと名乗った女性との先輩は、手に持った巻物を両手に持って広げて、こちらに向けて開いた。


「公式試合。今日の放課後に、第一試合会場で。私と、君で、召喚獣試合。これ、学園長からの許可書」


「えっ……」


 一年生と二年生、学年別での召喚獣試合は禁止されているはず。それを学園長お墨付きの公式試合?


「放課後に、私のゴーレムと戦うの。はいこれ」


 そう言って、白く細く、きめ細やかな肌の手を握って、持っていた巻物を俺に手渡した。たった、たったそれだけなのに、心臓の早鐘が鳴り止まない。


「これは君の分、私ので、二つあるから……じゃあ」


 口元に手を当てて、俺の横を通り過ぎて去って行くレイナ先輩。


 俺はずっと頭の中が真っ白になって、ずっと呆けてしまっていた。


 ガオンの「春じゃのう……」という呟きも聞こえぬまま。

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