こううんりゅうすい。

 さて、食べるものも食べたし、この後はどうするかな?


「私、自分のクラスに戻るね」

「ああ、じゃあな」

「またねー」


 小走りに去っていくアスカ。


「さて、この後どうすっかな?」

「腹ごなしに軽くトレーニングでもするか?」


 俺はそのガオンの提案を突っぱねる。


「やるなら一人でやってくれ、俺は運動が大嫌いなんだ」

「そうか? 体を動かすと気持ちが良いではないか」

「俺は辛いだけだよ」

「ふむぅ……」


 テキトなベンチでごろ寝でもするか。異世界に来ただけに、俺の持ち物、音楽プレーヤーや携帯ゲーム機、スマホすらも手元には無かった。


 あるのは支給されたパレットと呼ばれている液晶タブレットだけだ。


 購買で何か適当な本でも買ってみるか。


「やはり、マモル――」

「行雲流水」


 俺は一番好きな四文字熟語を言ってガオンの口をふさいだ。


「どういう意味なのだそれは?」


「空を漂う雲のように、ただ流れる水のように、何にも囚われず執着せず、今ある状況に従って行動する。と言う意味だ。しかもここは異世界でどんなモラルや規律や風潮があるのか分からない。下手な事をして嫌な目立ち方をしたくないんだよ」


「……そうか」

「んだよ。文句あるのか?」


「……いや。悪くは無い。慣れない異世界で不用意な事を避けることも、様子を見てから順応することも大事だからな」


「そうだろ?」

「あいわかった」


 そうそう、それでいいんだ。


 昨日はいきなりドラゴンを倒してしまい、ただでさえ目立つ筋肉を付き従えているのだから、これ以上下手な事をして悪目立ちするのは絶対に避けたい。


 たとえば――


 目の前に立ちふさがる男子生徒に絡まれるとかが、超々めんどくさい。


「やっと戻ってきたな、小野寺マモル!」

「えっと名前……シャケ太だっけ?」

「アラタだ!」

「冗談だよ」

「僕と闘え! 召喚獣バトルだ!」


 はぁ、とため息が出る。

 コイツ、俺が戻ってくるまでずっと待っていたのか。


「断るって――」


「あいわかった。その勝負、受けよう!」


 ガオンが唐突に叫んだ。


「おい……」


「なぁに、腹ごなしには丁度良い」


「俺は嫌だって言ってるだろ、従えよ」


「まあそう言うな……こういう手合いは絶対に諦めないでついてくるぞ。それに、私の闘いも見ていてくれマモル。私の筋肉に任せてくれまいか?」


「……はぁぁ。わかったよ」


 大きなため息を吐く。本当にやりたくないんだが、火蓋は切られてしまった……ってことか。


「マモルが怪我をするわけでも運動するわけでもない。ただ見ているだけでいい」


「ああ、勝手にしろよ。ったく……」


「よし、主からも許可が下りた。勝負といこうか! アラタ少年よ!」


「ふん、僕の……いや、僕たちに勝てるかな?」


 にやりと笑うアラタ。

 こういうヤツは本当にうっとおしいな。


「では試合場に行こうではないか」


「ああ、ドラゴンを倒したパワーだけの召喚獣。僕は簡単には倒せないぞ。フフフ」


 ああ、めんどくさい……。


 俺たちは方向を変えて、試合場に赴いた。

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