第5話 どんでんは戦争だ!

 取れなかったんですけど?

 カクヨムコンエッセイ漫画にするよ大賞(そんな名前じゃなかったかも)みたいなやつ。大賞取れなかったんですけど? え? なんで? ちゃんとお仕事エッセイ書いたんだけど?


 もう絶対に大賞受賞だと思っていたので、編集者の人に漫画にするとき出てくる人みんなオッドタクシーみたいな動物にしてください! ってお願いしたけど、やんわり断られて、でもめげずに「イケメンジャイアンはイケてるキツネがいいです!」って言うところまで話は進んでたのに取れなかったんですけど? え?


 そういうわけなので、せっかくたくさん読んでもらったし、書くのが楽しいので配膳エッセイを続けますが、とりあえずイケメンジャイアンはイケメンなキツネがいいのでそのつもりでお願いします! え?? ていうかなんで大賞該当者なしなの? どういうつもりなのカクヨムは??? 10万で救える魂がここにあるんですが? そのことについてどう考えているんですか? しっかりして。


 まぁカクヨムの文句をカクヨムに書いてもしょうがないので、今日はどんでんのお話をします。どんでん。知ってるかいみんな?


 私はホテルに勤めていながら長い間なんのこっちゃわからなかったが「どんでん」という言葉が出てくるとき、そこが戦場になるということだけは初期の初期から分かっていた。戦場というのはもちろん比喩なのですが、まぁ人が死ぬだけが戦争ではないので広義では戦場である。


 とにかく常に怒号が飛び交っていて、工事現場みたいな音が響き渡っていて、うろうろしていると「お前!なにしてる!」って班長みたいな人に怒られるし(指示しないのに)なんといってもともかく怒号が飛び交っている。あとちょっと気を抜いていたら「邪魔だ!」つってどかされたりする(指示しないのに)まぁそれはいつでも。


 雰囲気の描写はこれくらいにしてご説明申し上げると、どんでんというのは超でかい模様替えみたいなことで、たぶんおそらくメイビー歌舞伎とかから来てる言葉です。たとえば300名の謝恩会が終わり、同じ会場であと一時間後に150名と150名の結婚式がはじまります、といった場合の一つの会場を二つにしてテーブルとかもろもろを一から作り変えのことをどんでんといいます。


 まさかと思うが、そんなことも配膳人がやっています。びびるよな。私はびびったぜ一番最初にどんでんを見たときは。普段生きていて、なんかこう結婚式に出ることがあったとしても(そのときはまだ出たことはありませんでしたが)この会場だれが作ってんのかな? なんて考えもしないし、配膳というバイトをするようになっても、まさか給仕する人たちが会場を作っているとは思いもしませんでしたよね。


 どんでんは気を抜くと怪我するから、というようなことをよくミーティングで言われるのですが、まぁ普通に怪我はする。していた。骨折とかしている人いた。私もなんか突き指とか(普通に不注意)爪剥がれるとか(同じく)打ち身とか(これは殴られた)していました。


 で、なんで骨折に至るのかというと、みんな気が立っているからです。なぜ気が立っているのかというと、気を抜いたら怪我をするからという理由ではなく、単に時間がないからです。時間をこれだけ認識するのは人間しかいないはずなのに、時間の感覚が身に迫ることにより人間は野生に帰ってしまうんですねえ。不思議ですねえ(ムツゴロウボイス)


 いかん、往年のカッコでセルフツッコミをしてしまった。なぜなら私はいまこんなことをしている場合ではなく、今月末締め切りの公募にあと3万文字書かなきゃいけないのに集中力が50秒しかもたず、すると当然。セルフツッコミは寒いということに対する配慮も欠けてくるのである。【※これを書いてから時間が経ったのでこの公募は完成しました。ありがとうございました】


 閑話休題、気の立っている人間たちがどんな様子なのかをどんでんの説明と共にみてみよう!


 会場の作り直しのパターンにはいくつかあって、というか会場の形にはいくつかあって、たぶん一番簡単なのは立ちブッフェ。立食パーティとかいう言い方の方が一般的だろうか。大勢の人間が突っ込まれて、座る場所はちょっとした椅子が壁際にちょいちょい置いてあるだけ、テーブルはお料理が乗っているものだけ、みたいなやつです。


 これは両端に長机、呼び方を忘れたけれど「6ケン」とか「8ケン」とか呼ばれていたような気がする。たぶんものの長さの図り方的な「ケン」だと思うけど、全然ちがう「ケン」である可能性もなきにしもあらず。もしかしたら「ケンドロイジャー6」とか「ザッハケンドル8」とかいうわけわかんない名前の机である可能性もあるが、そんな可能性のことを言ったら世の中のこと何も進まなくなっちゃうので可能性の話はここで終わりにして、まぁそういう机があるということにしておいてください。


 そういった強めの長机を持ってきまして、上にクロスをかけまして、その上に銀器と呼ばれるお料理温まるよ+おしゃれだね器を置き、その横にシルバー類をたっぷりいれた箱と皿を置き、会場が開くとその上に料理人達が作ったと思われる料理がどーんと乗る。もう完成。椅子もそんなにいらない。


 ホテルの椅子ってみんなご存知? なんかどこも一緒かどうかわからんけれども、たぶん機構として積み上げられるようになっているのでだいたい同じような形だとおもうんですが、椅子がね、めちゃ積み上がってるんですよ。それをね椅子たくさん置いてあるよ部屋から持ってくるのが割りとちょっと面倒。


 私は常勤の中の全員の舎弟みたいな感じだったので、雑用の長みたいなことをしていたので、どんでんがはじまる前に今日始めてこのバイト来ました、みたいな種種雑多な人たちに向けて「じゃあ、椅子を、用意します」といい、探検隊みたいに列をなして、二階だか三階だかの椅子たくさん置いてあるよ部屋に連れて行きます。部屋にみっしり椅子が天井までつまっています。


 椅子はなんかテコの原理で斜めになってロールがついている部分をころころさせ引きずっていく土台みたいなのがあって、それを引いていきます。ひとロールで10~15脚くらいあんのかな? わすれた。エレベーターがその椅子集団で埋まり、出るときに強めの人が乗りたそうだったりすると椅子が全部出るまで待ってもらわなきゃいけないので謝ります。なぜなら私は雑用の長だから。その際に尻を触られることがありますが、きゃっきゃとしなくちゃいけません。なぜならやべえ職場だったから。


 で、立食パーティはそんな感じで簡単。どんでんもそこからちょっとしたお座りのパーティへの作り変えとかだとまぁまぁ簡単。バイキングならお料理置きはそのままで、中に丸い机をいくつか導入し、そこに人数分の椅子を設置すればオーケー。だからみんなそんなに気が立たない。なんならだらける。


 以前、このタイプのどんでんがあり、たぶん両方30~50くらいの規模だったので人でもそんなにいらず、私とイケジャイと陰スネ(陰キャのスネ夫。いつもイケジャイと一緒にいてイケジャイの言葉でしか笑わない)とあとちょっと数名バイトがいたくらいで、ゆったりまったりどんでんをしていた。


 こういう平和のときに場をかき乱すための係がホテルにはいて、それが契約社員なんだけれど、この契約社員というのはホテルの従業員の契約社員ではなく、配膳会社の契約社員であり、びっくりするほど微妙な立場にいるくせに気絶しそうなほど偉そうであり、基本仕事もそんなにできない人が多い。ホテルの社員とひっくるめて場を取り仕切る人なので「黒服」と呼ばれていました。


 で、弊社の黒服は仕事が出来ないので、部屋が作り変わったあとでバーンって入ってきて「なんだこのシルバーは」とか文句をつけ始めたりする。その時はなんかの部活か、フラダンスクラブの謝恩会かで、そんなに料理の格式が高くない、わかりやすく言うと客単価が低いメニューで、確か一人2000円とかだったんですよね。


 シルバー類はメニューをみてイケジャイとか陰スネとかが何を出すか決めるのですが、たしかその時はナイフとフォークだけ用意していたんですね。なぜなら2000円だから。というか本来はこれ黒服の仕事なんですね、シルバーどれだけ用意するかとか、普通に。それをしないのに文句をいってきて、そうするとどうなりますか? はい。戦争ですね。


 イケジャイは基本黒服を無視する+私がその黒服にめちゃくちゃ嫌われていたので、黒服はめちゃくちゃ私に文句言ってきます。なんでこんなこともわからんのかみたいなことを一生言ってます。それをみて陰スネがにやにや遠くで笑ってて、しばらくは助けてはくれません。で、イケジャイは今!?というタイミングで銀器へ水を注ぎはじめて(料理はお湯であたためます)やっぱりしばらくは助けてくれません。しばらくえんえんと同じ言葉で人格否定をされます。


「なんでこんなことができないんだよ!」


 黒服が地団駄を踏んだ。まじで踏むのである。地を。ダンダンダン!つって、40くらいの成人男性が、ダンダンダン!やだやだやだ!って。それを見てイケジャイと陰スネが遠くでけらけら笑います。どうも彼らは黒服のそれが見たかったらしく、見て満足したのかこちらに寄ってきた。


「メニュー見たんすか」

 イケジャイが出てくると思わなかったのか、黒服は急にねずみのような顔になった。体が小さいので本当にねずみのようだった。

「見たよ!」

 黒服はずっとわなわなしてた。本当に口をわなわなさせるのである。すごいぜ。

「へー見たんだ。え、2000円の飯でこれ以上なにつけるんすか?」

 もはや黒服は口で小さくわなわなと言っているような気がした。たぶんメニューをあまりちゃんと見ていなかったのだろう。

 すると陰スネがにやにやしながらカットインした。

「フィンガーボールじゃね?」

 にたにたとイケジャイも笑った。

「あ、手づかみっすか? 2000円の飯にナイフとフォークなんていらなかった?」

「皿もいらねえだろ」

「だな。手を皿にして手で食え」

イケジャイは天性の煽リストだし陰スネはイケジャイの煽りの煽リストなので、いつも二人は楽しそうである。イケジャイが私を見た。

「お前フィンガーボール用意してこいよ」

 おいおいフィンガーボールの場所なんて知らんぞ、と思っていると、また黒服が地団駄を踏んだ。

「もういい!」

 黒服がてんてけてんてんてーん!とぷんすこしながら退場するのを見てイケジャイと陰スネは一生笑っていた。私はフィンガーボールの場所を知らないので怒られた。いやでもフィンガーボール使わないし。


 そんなこんなで、どんでんにはこんな楽しいひとときが訪れるイージーどんでんというものも存在するのであります。といったところで、あれ? なんかちょっと書きすぎじゃない? という気がしてきたので一度この話はここで切ろうかと思います。なんの話してたんだっけ? そうだ、どんでんだ。


 ちなみにこれを書くにあたって日記を読み返したら、イケジャイ語録が結構かいてあった。「手を皿にして手で食え」は大分好きなセリフだったので結構強めに書いてあったです。のでまだネタがもう少しはあるかなという感じ。


 次回も気が向いた時に更新するので間があく気がしているのでよろしく。読んでくれる方がいるかどうかはわからん! いるのかな? いたらよろしくな! それじゃあまた!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

海辺のホテル物語 犬怪寅日子 @mememorimori

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ