第3話 シスター清華の話Ⅱ

 まだシスターになる前の、神崎清華と初対面を果たした時のこと。祖母のマリアンヌと一緒に神崎邸から帰宅した美果子はふと尋ねた。

「ねぇ、お婆ちゃん。どうして、清華お姉さんがお婆ちゃんの代わりにシスターになるの?」

 何気ない美果子の問いに、微笑みかけたマリアンヌは気さくに返答する。

「それはね……清華お姉さんが、クリスティーヌ・ジュレスの生まれ変わりだからだよ。

 この世に蔓延はびこる悪魔を封印することもできるし、あたしに匹敵するくらいの神力しんりょくがあるからお願いしたのさ」

 女騎士として、ジャンヌと共にフランス軍を率いて、イングランド連合軍が包囲していたオルレアン解放に貢献。

 戦死するまで、クリスティーヌは生まれ持った『特別な神力』で以て、人知れず悪魔を封じていた。

 クリスティーヌにしか扱えないその力を、神崎清華が生まれ持っていることから、クリスティーヌ・ジュレスの生まれ変わりであることが判明したのだそうだ。

 マリアンヌからその話を聞かされた時、美果子は子供ながらに感動を覚えたものだ。

 美果子自身が憧れる歴史上の人物と、同じ時代を生きた英雄の生まれ変わりなる者が身近にいる。それを思うだけで、胸が踊った。



 聖堂を目指し、歩き慣れたアスファルトの道路を進む。はっとした美果子は思わず、立ち止った。

 耳に掛かるくらいの紺色の髪。金色の三日月形をしたピアスを両耳に二つずつつけ、濃紺のマントを羽織った男子がひとり、こちらを背にして立っている。

 年のころ、美果子と同じくらいだろうか。何者なのかも分からず、美果子は警戒した。

 警戒する美果子の視線に気付き、男子がふと振り向いた。少し驚いた表情をしたが、すぐに真顔になり、大股でこちらに近づいてくる。

「ここは危険だ。今すぐ逃げろ」

 差し迫った口調で開口一番、男子はそう告げた。一抹の不安を抱いた美果子は、静かに尋ねた。

「なにか……あったんですか?」

「説明している時間がない」

 美果子の問いを退けた男子は、徐に着ているジャケットの内ポケットから一枚の白札を取り出すと、手早く宙に放つ。次の瞬間。

 ふわりと宙を舞った白札が、ポンッと音を立てて淡い紫みを帯びた銀色のペガサスに早変わりしたでわないか。

「お前から、先に乗れ」

「えっ、でも……」

「いいから、早く乗る」

「わ、分かりましたよ」

 怖い人だな。険しい顔で語気を強めた男子に促され、渋々しぶしぶペガサスの背に乗ろうとした、その時だった。

 華奢きゃしゃな美果子の身体がふわりと宙に浮いた。

 彼が後ろから美果子の身体を持ち上げ、ペガサスに乗せてくれたのだ。

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