第2話 シスター清華の話Ⅰ
「これは……お婆ちゃんが普段から身につけているネックレスだよね」
「そうさ。今まではあたしが持っていたけれど、これからは美果子が持っていておくれ。
これくらいしか、あたしにはできないけれど……少しでも、祝ってやれたら……と思ってね」
「それって……」
手渡された金の十字架を握りしめた美果子は感極まった。感動で、目をうるうるさせる美果子の目を、優しさと愛情が滲む微笑みで以て見詰めたマリアンヌが美果子にこう告げた。
「Joyeux anniversaire!」と。
フランス人のマリアンヌは、美果子の祖父に当たる
フランス語があまり得意ではない美果子にも、マリアンヌが告げた言葉の意味は分かった。マリアンヌはフランス語で「お誕生日おめでとう!」と祝福してくれたのだ。
「私からも……お誕生日、おめでとう!」
由梨絵はそう、心から祝福の言葉を送り、美果子をハグする。誕生日の日に、母親からハグされたのは、これが初めてだ。故に、頬を赤く染めてきょとんとした美果子だったが、
「お母さん、お婆ちゃん……ありがとう!」
満面に笑って、嬉しそうに感謝の言葉を告げたのだった。
父親譲りのストレートロングの茶髪に、母親譲りのぱっちりした茶色い目。
今日で、十七歳になった女子高校生の美果子は現在、マリアンヌと由梨絵と三人で海ヶ丘町に暮らしている。
これから美果子が目指す聖堂は、もとはマリアンヌが管理をしていた。だが、高齢に伴いシスターを引退。現在では後継人であるシスター清華が聖堂を管理している。
ここで少し、シスター清華について説明しておこう。
シスター清華とは美果子が物心つく頃から顔見知りで、出逢ってからもう十年近く経つ。
美果子と四つ違いと言うこともあり、ひとりっこの美果子にとっては姉のような存在で、良き理解者でもあった。
そして、もうひとつ。シスター清華を語るには外せないことがある。
ゆったりと歩きながら美果子が向かっている聖堂には、横長の旗を勇ましく掲げた等身大のジャンヌ・ダルクと、クリスティーヌ・ジュレスの白い像が安置されている。そのことは、物語の冒頭に記したので、記憶に新しいことだろう。
なにを隠そうシスター清華は、歴史上に名を
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます