チートもスキルも俺にはいらねぇ！ 根性一つでダンジョン攻略！ 絶対彼女を見つけ出す！ 〜え？ 王子に転生？ そんなこと、どーでもいいわっ！〜

第12話 覚醒!!

「———ぐあはぁぁぁぁ!!」

「や、ヤマト！」

　背中からほとばしる強烈な衝撃が、体中へと拡散する。

　鞭（むち）のように尾をしならせ、遠心力をたっぷりと乗せた絶命必至の一撃。にもかかわらず、俺は生きてる証拠の痛みに顔を歪ませている。

　生にしがみつく本能が、俺を突き動かしたのか。

　咄嗟に構えた剣が盾となり、スネークドラゴンの尾と壁の圧死（プレス）から、命を救い上げてくれた。

　だが、かろうじてだ。

　俺が立たされているのは、どちらに転んでも不思議ではない死の狭間。

　壁と尾に挟まれて、地面から足が浮いている状態だ。

　両手で支える剣が唯一の砦。一瞬でも力を緩めれば、何もかも粉砕されてしまうだろう。

　鱗の隙間を蠕動（ぜんどう）するしなやかな筋繊維に剣が浅く食い込んで、緑色の体液を吹き散らしている。スネークドラゴンの瞳孔は怒りで赤く染まっていた。もはや切り傷程度の痛みなど、毛程にも感じないのだろうか。

　まるで俺を壁のオブジェのようにぶさらげてる尾の圧力が、一際強くなる。

「く、くっそおおおおおぉぉぉ！」

　右手に柄を握り、左手で刃を支えながらの力比べ。

　左手の平から鮮血が滲み出ると、刀身を伝って禍々しい緑の体液と混ざり合い、色を濃くして滴（したた）り落ちる。

（……もう少し押し返せれば、体を下に逃がせるのに……！）

　エリシュへと、目を馳せる。

　彼女も俺を助けようとレイピアを構えて臨戦体制。だが、スネークドラゴンがそれを許さない。

　頭部は完全にエリシュを敵と定め、醜い口を大きく開き恫喝している。

　援軍は見込めない。完全に孤立状態。

　このまま力比べをしていても、先に音を上げるのは確実に俺のほうだ。

　———俺は。

　すぅと息を吸い込み覚悟を決め、両手にありったけの力を込める。

「うおりゃああああああああ！」

　掛け声と共に、スネークドラゴンの尾を押し返す。左手の肉は切れ、刃が骨で止まる。左手からは更に赤い血が花弁のように飛び散った。

　———俺は、こんなところで。

　さらに力を注ぎ込む。

　ごり、と、直刃（すぐは）が骨を粉砕する音も、どこかよそよそしく聞こえてくる。

　戦闘の恐怖と興奮で、もはや痛覚は機能をはたしていない。

　———こんなところで、くたばるわけにはいかねーんだっ！　玲奈に会うまではなぁぁぁ!!

　俺の中で、何かが爆（は）ぜた。

　同時に、氷のような儚く薄い何かが砕け散る映像（ビジョン）が、脳裏に浮かぶ。

　体の奥で確かに感じた暴発は、俺にまとわりつく何かを確かに粉砕して。

　体が許された、解放された、瞬時にそう解釈した。

　沸々を高揚感が染み出して、躍動感に体全体が震え出す。

　腕に、心に力が漲（みなぎ）っていく。

「おおおおおおおおおおおおおおおっっ！」

『シャアアアァァ!?』

　スネークドラゴンの尾が、少しずつ体から離れていく。

　今までの攻防がまるで児戯（じぎ）のよう。巨躯を誇る外魔獣（モンスター）を遥かに凌駕する自分の底知れぬ力に驚きつつも、尾を完全に押し返す。

　自力で勝ち取った脱出口。その隙間。

　背中の壁を足で蹴り付け、上に跳ねる。

　尾は勢いそのままに壁を激しく殴打する。

　上空を緩やかに舞いながら、尾（それ）を眼下に捕らえ剣を握り直し。

　浮力を失い、体に重力が戻るそのタイミングに呼応して、大胆に振りかぶる。

「うおりゃあああああああ！」

　迷いなく振り下ろしたその一刀は、スネークドラゴンの堅牢な鱗で覆われた尾を、いともあっさりと両断した。