6 ある者の回想。

地球 或る少年の決意 


神様が、居るだ何て微塵みじんも信じちゃいない。


数学すうがくが好きだ。


子供の頃からずっと好きだ。


物心ついたころから数と遊んでいた。


僕にとっては数が友達で、それ以外は心の無い只の数字や文字だと思っていた。


誰に理解りかいされなくたっていい、地位ちい名誉めいよも必要ない。


只僕ただぼくは、この世界の本当の意味の真理しんりにたどり着けるような気がして、けれど、数学は怖い、顔の無い、感情の無い、孤独こどくやみだ。


僕は、数学をすると、時々死にたくなる。


発狂はっきょうしそうにも成る。


変な感覚だ、深く数学に入り込むほどに僕は、僕の人格も、何もかもが無くなって、此処に居る事が不思議で、何処か違う所にいる様な浮遊感ふゆうかんに、透明な色になったような、そんな孤独を覚える。


しかし、如何してだろう。僕が一体何で出来ているのか・・・。


僕を形作るものは一体何なんだろう。


僕は、両親に、家族に血縁者けつえんしゃに似ている。


けれど、其れは、あくまで、指紋しもんだとか、免疫めんえきだとか、がんの発症率だとか、だけだ。


僕は決して彼等では無かった。


生れて来て、この体で、此の頭で、頭脳で、感覚で恐らく幾らかは遺伝いでんしているのだろうが、此の知能も意識も感覚も決して、彼等と同一ではなく、其れは、私だった。


出来れば、天才に生まれたかった。


いいや、自分にだって才能は或る。


全てを持っている人間はこの世に居るのだろうか、理論上りろんじょうは存在するが、現実にはどうだろう、何か足りない物が或るはずだ。


僕はもっと運動とか、勉強だって、優秀な、何だって出来る人間では無かった、けれど幸い、僕には才能があった。


其れは、きっと人の羨むような才能なのだ。もっといる自分からすれば其れは、羨むものなのかも分からない、失えばきっと僕ではなくなるそういった才能だった。

僕は、ずるくて、狡猾こうかつだった。


そして、かんするどかった。人の考えて居る事も、動物の考えて居る事も大体わかった。嘘は直ぐに見抜けられた。其の為か頭痛持ちでもあった。


恐らく僕は、そもそも、結構優秀けっこうゆうしゅうな遺伝子で生まれて来られたのだろう。


只、本物の天才では無かった。何処にでもいる優秀だ。


自分の死ぬのを考えると、僕は、震えた。


其の死から目を逸らす様に、理想を語った。


其れは、あくまで理想だった、何時かは必ず死は来るし、出来る事だって限られている。


身体が後、最低でも三つは在ればなあと思う。


恐らく、此の儘では、全てが本物には成れずに、中途半端で死んで終う。


其れが何よりも怖かった。あれもこれも手に入れるには、此の身体一つでは不可能なのだ。


やれる事は、限られている。


自分の才能と、本当の意味で能力が発揮出来て、名前も残せそうな事は或る。其れが恐らく天命なのだとも、気が付いている。


けれど、僕は、まだまだ若くて青かった。


だから、選べなかった。


どれか一つには。


きっと一つに絞って其れに一生を掛ける位の事をしなければ、人、一人が出来る事なんて、其の時代のちょっとした出来事で終わってしまう、いわば、その程度の事で終わってしまう事なのだ。


きっと、僕の仕事だって、忘れられる。


死んで終えば、生きていた時の事なんて誰が知っているだろうか。


其の生きていた人も孰れは死ぬ。


そして、其れは、完全に忘れ去られるのだ。何も其れが怖い訳でも、いやなわけでも、悲しい訳でもない、其れが、と言うものなのだ。


私は、忘れられるのが、怖い訳では、無い。生れてきたからには、最大限此の世界に貢献こうけんして死にたいのだ。其れは、例えば、新しい、数学の定理を見つけるとか、解けなかった問題を解くだとか、医学の分野で、新発見をするだとか、何世代にもわたって、其の発見が、活用され、生かされ、助けに成るような、そんな発見をする事が、この世界に於ける最も有用な事だと思う。


其れは、立派でありたいとか、ではなく、只単純に怖いだけだ。


結局の処、誰かが、新たな技術を開発し、開拓していかなければ、此の世界は終わる。


其れ次第なのだ。


今の世の中は仮初かりそめの世界で、其れは、何とかこわれそうになりながら其の形を保っているガラスだ。何時かは壊れる。


誰かが、本当の意味で常識を変える、新たな法則を発見しなければ。

私は只そう思うのだ。


きっと、馬鹿らしい話だというだろう。


其れでも、僕は、今の世界を決して安全な世界だなんてミジンコも思っちゃいない。危険の伴う、恐ろしい世界だ。


だからこそ、知る必要が或る。


現代の技術の粋を。この世界の最先端さいせんたんを。


そして、必ず、助ける、宇宙からのあの、りゅうの子供たちを。

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