第2話 【老魔法王】の魔法の講義―火・氷・雷(いかずち)属性魔術の傾向と対策―
【ここまでのあらすじ】
時は2000年代後半の12月下旬、場所は
暗い部屋にて。
「ここはどこだ。貴様は誰だ。」
「我が名は、【クネヒト・ループレヒト】。」
【クネヒト・ループレヒト】曰く、【転移】したのだという。
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「何が望みだ?」
郡山青年は、殺気を抑えつつ、尋ねる。
「君の情報が及ぼした影響が消えるまで、君を狙う有象無象の連中から、君自身を護れる程度の力はつけてもらう。その頃には、自力で転移元の世界に戻る手段も獲得できているだろう。」
クネヒト・ループレヒトは、郡山青年に「力をつけろ」と望んできた。
「いきなり、『力をつけてもらう。』と言われてもね。」
「蝙蝠山卿には、私が魔法を教えてやろう。」
「『魔法』?再現性の低い現象は、科学の対象ではないから専門外だし、それに何故、俺の
「確かに転移元の世界には、魔法は存在していない。魔法を使うのに必要となる力を【魔力】と呼ぶのだが、この世界には【魔力】を媒介する【魔素】という素粒子があるのだよ。転移元の世界では、半減期が短すぎて観測すら出来ないがね。」
「素粒子」という、物理学徒には馴染み深い単語を登場させ、僅かにでも興味を引く辺り、クネヒト・ループレヒトもまた、物理学を志した者であった。その片鱗を感じさせつつ、彼の話は続く。
「君の
蝙蝠山卿は傾聴している。老魔法王は話を続ける。
「【魔法】とはそもそも何か。【魔】と【法】は、対となる別の概念で、前者は、未来・闇・自然といった未知を表し、これを扱う術を【魔術】、【魔術】を扱うのに必要な力を【魔力】、【魔術】を扱う者、或いは職業を【魔術士】、【魔術士】を育成する指導者を【魔導師】と呼ぶ。後者は、過去・光・人工といった既知を表し、これを扱う術を【法術】、【法術】を扱うのに必要な力を【法力】、といった具合に定義することが出来る。【魔法使い】に成るには、どちらかの概念に溺れたり、概念を忌避することなく、その両方に通じていなければならないのだ。」
さらに、老魔法王の説明は続く。
「これらは、西洋から持ち込まれた概念であり、『自然を征服する』という意味が含まれる。東洋の『自然と共生する』という概念とは対照的だな。未征服の動物や人間なら【魔物】や【魔人】、部族なら【魔族】、これらを統べる者が【魔王】や【魔神】、これらのうち、特に、人間に危害を加える存在を【悪魔】とか【邪神】と呼ぶわけだ。【魔】で表される存在が、全て【邪悪】ではない、という点には注意が必要である、と前置きした方が良いだろう。」
「西洋の【魔】と【法】は闇と光、これは東洋の【陰】と【陽】と同義の概念と解釈すれば、西洋の【魔法使い】は、東洋の【陰陽術士】に通ずる概念として捉えられる。両者の相違点か?西洋は、土・水・風・火の四元素説、これは、科学における、固体・液体・気体・プラズマに通ずるものがあるな。東洋は、火・水・木・金・土の五行説。これを【陰】を月、【陽】を日として、その間に挟めば、日・月・火・水・木・金・土の七曜。即ち、一週間のことに他ならない。
こうして、蝙蝠山卿は、老魔法王の講義?とでもいうべき、一応理論的な説明を受けるのであった……。
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【老魔法王】の魔法の講義が終わった後は、実習の時間となる。そう言われて、河原の様な場所に連れてこられた。
「我が
「火属性?」
「西洋の古代魔法は、土・水・風・火の四元素が基本だ。基本的には、杖無し・無詠唱で行う。杖は補助用の道具に過ぎない。東洋には、
「プラズマ」
「科学的にはその通りだが……。質問を変えよう。燃焼の三要素とは?」
そういえば、危険物の取り扱いに関して、資格試験で勉強したなぁ、確か、燃焼とは、酸化還元反応だったよなぁ、と思い出しながら。
「酸化剤、還元剤、あと、活性化エネルギー。」
酸化剤は酸素供給源、還元剤は可燃物、活性化エネルギーは着火源のことである。
「以前確か言ったように、魔法には、魔術と法術がある。表世界で一般的に魔法とされるものは、裏世界では魔術の範疇であり、法術は、損傷の回復や状態異常の治癒、結界の生成などが主だ。」
火属性魔術の傾向と対策に関して。
「そして、火属性は表世界では攻撃魔法のイメージが強いが、実際は、防御向きなので、どちらかといえば、初学者向きだ。例えば、柔道では投げ技よりも先に受け身を学ぶようなものだ。」
「表世界では、燃焼反応というと、酸素という助燃性ガスとの化合になるが、裏世界では、酸素の代わりに、魔素を使う。己の中にある魔力で魔素を引き寄せるのだ。次に、引き寄せた魔素に火の属性を付与する。これは、内なる怒りを放出し、その炎を全身に纏うイメージだ。考えてもみたまえ。これを魔素ではなく、酸素で行えば火
郡山青年が実際に試すと、紫の炎が全身を覆った。
「そして、魔力には色がある。敢えて科学に
「火属性の魔術を使っても自身は熱さを感じない。酸素を使った燃焼ではないからだ。しかし、自分以外に対しては、相手の魔力色が同色でもない限り、燃焼と同じ反応になる。つまり、炎を纏った状態で体当たりでもすれば、攻撃にも転用することも出来る。相手が魔術を行使した場合も、その攻撃に対する障壁にもなるが、相手の魔力量が上回っていれば、障壁を貫通されてしまう。過信は禁物だ。」
こうして、蝙蝠山卿は、火属性の魔術を習得したのであった……。
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火属性の魔術を習得した蝙蝠山卿であったが……。
「次は、氷属性の魔術について教えよう。」
「さっき、『西洋の古代魔法は、土・水・風・火の四元素が基本』とか聞いた気がするんですが?」
「そう焦ることはない。説明しよう。近代に入って以降、その四元素に加えて、氷属性と雷属性が提唱されるようになった。」
「氷は固体で、雷はプラズマ?」
「科学に関しては今は一度脇に置こう。火属性と氷属性ではどちらが強い?」
「火は氷を溶かすから……、順当に考えれば、火属性?」
「では、火属性と水属性では?」
「水は火を消すから、水属性は火属性に強い……」
「君の理論だとそうなるな。確かに、最初はそう思われていた。しかし、現代では氷属性は寧ろ、極低温という意味で、極属性とでも捉えた方がいい。物質は、引火点に満たない低温では燃焼することができない。火属性が熱を放出するのとは逆に、氷属性はその燃焼に必要な熱を奪う。従って、氷属性は、火属性に強い。」
危険物の取り扱いに関して、資格試験で勉強した時、引火点と発火点に関して記憶したことを思い出す。
「氷属性は水属性の亜種のようなものなのか……。」
「確かに、最初は氷属性は水属性の亜種のような扱いだった。更に言うと、火の勢いが強ければ、水を蒸発させてしまう。つまり、相手の魔力量が上回っていれば、属性同士の相性も逆転する。」
氷属性魔術の傾向と対策に関して。
「氷属性の魔術は主に、相手が火属性の魔術を行使しているとき、それを打ち消すために使われる。殺気を叩き付けて、相手に引き寄せられている魔素を霧散させるイメージだ。」
郡山青年が紫の炎を纏い、クネヒト・ループレヒトが実際にそれを打ち消してみせる。
「土・水・風・火の四元素の古代魔法は、無詠唱が基本だと話したが、近代以降に提唱された氷属性は、現代では、東洋の
蛇足だが、【クライオ】には、「低温」という意味がある。今度は、クネヒト・ループレヒトが紅蓮の炎を纏い、郡山青年がそれを打ち消す。
「【クライオ】」
実際に試すと、紅蓮の炎が霧散した。こうして、蝙蝠山卿は、火属性の魔術に続き、
氷属性の魔術の奥義【クライオ】も習得したのであった……。
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火属性の魔術に続き、氷属性の魔術の奥義【クライオ】も習得した蝙蝠山卿。次は、
「続いて、
「水は電気をよく通すって言われるけど、実は真水は電気を通さないし……」
「ではヒントを差し上げよう。氷属性には、別名があったな。」
「極属性、極低温……超伝導か!」
特定の物質は、極めて低温において、電気抵抗が殆どゼロに近づく。これを「超伝導」と呼ぶ。
「ご名答。逆に、相手が火属性の魔術を行使している時に発動すると遮蔽されてしまう。何故だか分かるかね?」
「火属性の魔術は防御向きで、相手が魔術を行使した場合に、その攻撃に対する障壁になるから。」
「及第点ではあるが、満点の解答ではない。ヒントだ。特定の物質は、高温では、磁場が消失するだろう?」
「キュリー温度。熱運動が電磁力の影響を上回るから。」
「その通り。『
郡山青年が紫の炎を纏い、クネヒト・ループレヒトが放つ紅い稲妻を防ぐ。その様子は、テスラコイルの放電を想起させる。
「稲妻の色も、己の
蛇足だが、【ガルバノ】には、「電磁気の」という意味があり、「ガルヴァーニ」という人名に由来している。今度は、クネヒト・ループレヒトが紅蓮の炎を纏い、郡山青年が紫電を放つ。
「【ガルバノ】」
確かに、「
属性間の相性関係をまとめると、
火<氷<雷<火
と
よくゲームで赤・青・緑の「三すくみ」の関係があるが、殆どのゲームで、赤は火属性や炎属性、青は水属性や氷属性と呼ばれるのに対し、第三の属性は、緑の場合、風、木、草、大地、黄色の場合、雷や土といったように、定まっていない印象がある。
四元素説の場合は、
火<水<土<風<火
だし、五行説の場合は、
火<水<土<木<金<火
みたいな関係式が一般的だろうか。
六属性の理論だと、
火<水<雷<土<風<氷<火
の様になっているゲームもあったが、これは勿論この世界の理論とは一致しない。
こうして、蝙蝠山卿は、火属性の魔術、氷属性の魔術の奥義【クライオ】に続き、
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