第5話 二人だけの隠し事

「いやぁあーー!!」


藤島ひなこ、完全にやってしまった!!

朝から真っ青である。

やったと言っても、いわゆる、そういうやってしまったアレではない。


み、見られた!!

あの後輩君に、絶対に見られてはいけないものを。知られてはいけないことを。

バレた! 完全にバレた!

わたしが、ハヤテ君のガチオタであるということが。

もう、言い訳しようがない。

わたしの部屋は、隅から隅までハヤテ君グッズで溢れかえっているからだ。

よりによって、あの後輩君に知られてしまうなんて!!

オ・ワ・タ!



グッズを集めることは、実に地獄の扉を開けてしまったも同然だ。

全てのグッズをコレクトとしようものなら、わたしの経済力では確実に破産する。

家賃、光熱費、食費以外は、グッズやイベント事に当てていると言っても過言ではない。

破滅してしまう。どこかで歯止めをかけなければならない。

だからずっと、手を出さないようにしてきたはずなのに。

現在のわたしの部屋は、推しだけをコレクトすることを念頭に、ランダムグッズを交換し、ハヤテ君の無限回収を行ってきた賜物だ。

これを誰にも見せないために一人暮らしをし、誰一人家にあげることなく、昨日まで生きてきたというのに!!

なんてことだ!!




「昨日は本当に、ごめんなさい!!」


「え?」


「それと……。あのこと、絶対誰にも言わないでもらいたいです!!」


「あのこと?」


「土下座でもなんでもします! 流石に体は差し出せませんが、お願いします!」


「なんで、隠すんですか?」


「へ……?」


「あのことって、ハヤテ大好きってことですよね?」


「うわ、ちょ、声デカイ! ここ会社!」


「だって、好きなんでしょ、ハヤテ」


「な、だって、そんなの、わたしの柄じゃないから! わたしは、仕事の鬼じゃないといけないから……」


「それ、苦しくないですか?」


ハッとした。

そうだ、わたし、それがずっと苦しくて……


「ハヤテのどこが好きなんです? 彼って、どちらかと言えばダサい脇役ですよね?」


「それは……。おどけて、みんな笑わせて、いつも自分の役割を全うして。けど、どこが寂しそうで。だから……」


「先輩は、誰になら本当の自分を見せるんですか?」


「え、ポメラニアン……」


「犬!?」


ずっと封じ込めてきた初恋。

どうして、こんなに、こじらせているのだろう。

なんでわたしは、ずっと閉じ込めているんだろう。


「よし、じゃあ、分かりました。先輩、これは二人だけの隠し事です。約束を守る代わりに、俺とデートしてください」


「デ、デート!?」


後輩君は、ニヤリと笑った。

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