第14話 自信
「うん、盗賊が一番だな」
セイに戦士以外のクラス――戦士は俺が使う為――を一通り試させて出た結論がこれだ。
まあ正確には盗賊も決して向いてなどはいないのだが、他よりも比較的ましだった。
「に、逃げ回るのは少し得意です」
出来れば魔物と闘える様になってパーティーでの貢献度を上げて欲しいのだが、まあそれはおいおい訓練でどうにかするとしよう。
彼女が経験値を稼げば稼ぐほど、能率は上がるからな。
【奴隷】クラスの使う従属には、ステータス付与以外の効果があった。
それはセイが得た戦闘での経験値分を、丸々主人に付与――彼女の経験値を奪う訳ではない――するという物だ。
つまり、彼女が得た経験値がそのまま俺にも入って来るという訳だ。
それはつまり、パーティーを組んでも俺に入る経験値はそのままって事である。
彼女に入った分が、100%丸々俺に返って来る訳だからな。
「最初は逃げ回るだけでいいさ」
サブクラスの育成を考えると、取得できる経験値は可能な限りセイに偏らせた方が効率は良くなる。
だが今のままでは、彼女が大量の経験値を得る事は難しい。
何故なら、パーティーを組んだ場合の経験値の配分は戦闘にどれだけ貢献したかで決まるからだ。
なので、ただ逃げ回るだけでは経験値は入って来ない。
まあそれでも、彼女にはスキルによる支援があるから0ではないが……
強化や回復なんかの支援行動も、当然貢献度に入る。
しかも回復なんかは、戦闘後の、何故か未来の行動も貢献度に加えられる仕様だ。
なんだそれ?と思うかもしれないが、それがこの世界の法則なのでそうだとしか答え様がない。
セイの『従属』の効果はサブクラスと合わせれば強力だから、それだけでそこそこ経験値が貰えるんじゃないかって?
確かに、セイの『従属』は強力な——俺のサブクラスと合わされば――支援である。
本来なら、それだけで結構な経験値を得る事が出来る代物と言えるだろう。
だが残念ながらこのスキルには特殊な制限がかかっている様で、貢献度はかなり低く扱われる様だった。
そのため、戦闘に真面に参加できない状態だとたいした経験値は得られないのだ。
「まあ戦闘での貢献は、戦いに馴れてからだな」
今のセイが、魔物相手に大立ち回りする姿が全く思い浮かばない。
しばらくは戦闘に馴れる事に集中して貰う事になるだろう。
因みに、魔法使いになって遠くから攻撃すると言う選択肢はない。
それだと前衛の俺にステータス付与の旨味が無いのと、まあこれは狩人でも言える事なのだが、セイの攻撃が俺に当たるリスクがあるからだ。
真面に狙いを付けられない奴に遠距離攻撃させても、絶対ろくな事にはならない。
「さて、クラスも決まったし。装備でも買いに行くか」
「あ、あの……」
適性検査が終わったので、次は装備だ。
そう思ったのだが、どうにも彼女の顔色が芳しくない。
「実は私……あんまりお金が無くって。ダルダさんには、役立たずに渡す金はないって言われて……」
「ああ、そんな事か?気にするな。パーティーにとっての必要な支度金なんだから、パーティー資金から出すさ」
「パーティー資金……ですか?」
パーティーを組むなら、パーティー行動用に資金を用意するのは冒険者として当然の事だ。
「ああそうだ。パーティーの為の金さ」
まあ現状そんな物はない訳だが。
何せ、昨日まではソロだったからな。
だがまあ、そう言う名目なら彼女も気兼ねなく受け取れるだろう。
「本当に……その……いいんですか?私みたいな能無しの為に使っても、意味がないんじゃ……」
と思ったが、セイはそれでも気が引けるらしい。
今まで人生が上手く行かなかったせいで、少々卑屈になってしまっている様だ。
「セイ。君はもう能無しなんかじゃない。これからは【盗賊】っていう立派なクラス持ちだ。もっと自信を持っていい」
「でも……これは、アマルさんのスキルで……」
ふむ、今のセイに一番必要なのは自信か。
何とか回復してやりたい所だが、俺が思いつく事と言えば訓練位な物だ。
それ以外やってこなかったからな。
積み重ねた物は必ず無駄にならない。
そう信じ、俺は20年努力してきた。
同じ様に上手く行くかは分からないが――
「よし!セイ!明日から猛特訓だ!」
「ええ!?」
暫く狩りは休みにし、時間は全てセイの為につぎ込む。
自分の成長さえ実感できれば、彼女も少しは考え方が変わるだろう。
ひいてはそれがパーティーの、俺の強化につながる筈である。
「あ、あの……特訓って……」
「セイの為のスペシャルメニューだ!そしてそのための装備!行くぞ!」
「ひゃあああぁぁぁぁ」
俺は悲鳴を上げるセイを引っ張り、まずは彼女の装備を整えに向かう。
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