第13話 勧誘

結論から言うと、男が言っていたユニーククラスの【奴隷】や従属というスキルは事実だった様だ。


まさかそんなクラスが存在しているとは夢にも思わなかった。

神は何を思って【奴隷】なんて物を作ったのやら。


「私……子供の頃からどんくさくって。何にもできなくて。でも、15でクラスの力が手に入ったら、きっと何かできる事がある筈だって……」


彼女の名はセイ。

今年15になったばかりの少女だ。


黒髪黒目で、中々に可愛らしい顔立ちをしている。

ただ体は痩せ気味で、ちゃんと飯を食ってるのか心配になる体つきだった。


「でも【奴隷】なんてクラスになって……家族には恥ずかしいからって、家を追い出されちゃって」


どうやら家族には恵まれなかった様だ。

俺は孤児なので彼女の気持ちを正確には分かってやれないが、きっと辛かった事だろう。


「どうしようもなかった私を、ダルダさんが拾ってくれたんです。だから私、冒険者として一生懸命頑張ろうって……」


ダルダってのは、多分さっきの男だろう。

彼女をパーティーに誘ったのは、きっと【奴隷】クラスのスキルに期待しての事に違いない。


説明を聞いた限り、セイの使う隷属のスキルは優秀な物だった。

スキルで従属した主に、自身の能力分の強化バフをかけるという効果だ。


要は、セイと言う人間丸々分のステータスを得る事が出来るという訳である。


ただ彼女とクラスには大きな欠点があった。

【奴隷】と言うクラスには、能力を向上させるパッシブスキルや補正がないのだ。

俺の【転職屋】と同じで。


加えて、やせ細った彼女は見ての通り非力だ。

戦士としての恩恵を受けている冒険者にとって、ひ弱な女の子の身体能力分が加算された所で、その恩恵は小さいと言わざる得ない。


「それなのに首になって……私、これからどうしたいいんだろう」


自分のこれからを考え、彼女はがっくりと項垂れる。

放っておくとまた泣き出しそうだ。

俺は彼女の肩に手を置き、言葉をかけた。


慰めではなく。

勧誘の言葉を。


「俺も冒険者なんだが、良かったら俺と組まないか?」


「……え?」


セイが俺の言葉を聞いて目を見開く。

話を聞く限り、彼女は役立たずのポンコツだ。

殴ったのはともかく、ダルダだという男が彼女を首にしたのは仕方がない事だろう。


――だが俺の場合、話は変わって来る。


「私……首になるぐらい何にも……できませんけど……」


「大丈夫だ。俺もユニーククラスなんだが、君にとって有効なスキルがあるから」


俺にはサブクラス付与があるからな。

現在はスキルレベルが2に上がっており、一人だけなら他人にクラスを付与する事も出来る。

彼女自身は非力であっても、クラスの恩恵さえあればそこそこの能力にはなる筈だ。


そしてそのステータスを彼女の従属で付与して貰えば、俺はその分のパワーアッをプ見込める。


「本当……ですか?」


「ああ」


彼女は俺にとって有用な人材だ。

それに何より、おかしなユニークスキルのせいで苦しんでいる姿はとても他人ごとに思えない。


「俺と組もう」


俺は笑顔で左手をセイに差し出す。


仲間に求める条件としては、俺のスキルを他言無用である事が求められる。

初対面の人間を信頼できるのかという問題はあるが、まあ大丈夫だろう。

パーティーを首になって追い込まれた彼女が、救い主である俺を裏切る可能性は低いはず。


多分。


「ありがとうございます!ありがとう……ぐっ……うぅ……」


感極まってか、俺の差し出した手をセイは両手でつかみまた泣き出してしまった。


……やれやれ、よく泣く子だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る