第12話 路地裏

「ふざけんな!この役立たずが!」


人気のない抜け道を通っていると、怒鳴り声が聞こえる。

まあこういう場所だ。

喧嘩ぐらいあるだろう。


そう考えスルーしようとしたが……


「ご、ごめんなさい。でも……でも……」


「口答えすんじゃねぇ!」


「ぁぅっ……」


男の怒声。

若い女の子の声。

そして、乾いた音。


男が暴力を振るったのは明らかだった。


ただの痴話喧嘩かもしれないが、女性に一方的に暴力を振るっている様なら黙って見過ごすわけにもいかない。


「おい。何をしてる」


現場に辿り着くと、ガタイのいい冒険者風の男が体の小さな女の子の襟首を掴み上げている場面だった。

少し様子をと思ったが、今にも殴られそうな状況だったので声をかけて止める。


「誰だテメーは!失せろ!」


「その子を離せ」


見た所、女の子は14、5歳って所だろう。

殴り合いだってんならまだわかるが、明らかに一方的な暴力だ。


「こいつは俺のパーティーの問題だ!関係ない奴はすっこんでろ!」


パーティーって事は、やはり冒険者か。

主張を聞く限り、頭は相当悪そうだ。


「いつからこの国は、パティ―メンバーに一方的な暴力が許されるようになったんだ?」


「うるせぇ!こいつは俺の奴隷なんだから良いんだよ!!」


「奴隷……ね」


昔は奴隷制度があったが、現在でこの国や周辺で奴隷は許可されていない。

つまり奴は今、俺に堂々と自分の犯罪を宣言した訳だ。


「あ……か、勘違いするな!本当に奴隷な訳じゃねぇ!こいつのスキルだ!」


流石に不味い事を口走った事に気付いたのか、男は言葉を訂正する。

だがスキルだなど意味不明だ。

言い訳にもなってない。


「寝言か?」


「こいつはユニーククラスの【奴隷】なんだよ!」


ユニーククラス……奴隷?


俺は思わず眉を顰める。

俺もユニーククラスにそこまで詳しい訳じゃないが、いくら何でもそれはないだろう。

嘘にしても酷い。


「そのクラスのスキルに従属ってスキルがあって、こいつはそのスキルで俺の奴隷になってるんだよ!」


どうやらまだ戯言を続ける様だ。

流石に相手にするのもあほらしくなって来た。


「まあ仮にそれが真実だったとし、お前がその子を痛めつけて良い理由にはならない。この国自体がそれを認めてないんだからな。いいからさっさと離せ」


「くっ……てめぇ、人が下手に出てりゃいい気になりやがって!」


激高した男が少女を離し、俺に殴りかかって来る。

べらべら言い訳していたが、結局最後は暴力に訴えかけて来る訳だ。

単細胞もいい所である。


――俺はそれを片手で受け止め、奴の鼻先めがけて拳を叩き込んでやった。


「ぐぇぇ……」


気絶するつもりで少し強めに殴ったのだが、どうやら動きは鈍いがそこそこ打たれ強くはある様だ。

殴られて吹っ飛んだ男は痛みに鼻を押さえ、転げまわっている。


「ぐぐ……でめぇ……」


「続けるってんなら相手になってやるぞ?」


「ぐ……うぅ……ぐぞっ!」


流石に力量の差は理解できた様で、男は鼻を手で押さえたまま立ち上がり、ふらつく足取りで去っていった。


「ゼイ!でめぇはグビだ!」


最後に捨て台詞を残し。


「く……び?そんな……私……これからどうしたら……うっ、うぅ……ひっく……」


その言葉を聞いた少女が、その場で蹲って泣き出してしまった。

パーティー間の揉め事なので「助けてくれてありがとうございます」的なスッキリした展開は期待していなかったが、流石に泣き出されると対応に困ってしまう。


暴力の心配がなくなったとはいえ、流石にこの状況で女の子を放って行く訳にもいかないよな?


やれやれ……

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